第11話:天までそびえる白天の城

 高くそびえる雲の城。

 本当は頼りなくてはかないはずの雲が、今私の目の前に圧倒的な存在感で建っていた。

 ここは雲の《星》の中心、雲の道の開始点。

 雲の夢の生まれた地、白天の城と呼ばれている場所。

 私は今歴史の始まりを目にしていた。


 雲で造った天馬でしばらく遊んだあと、愛着の湧いてしまった天馬に泣く泣く別れを告げ、キズナに案内されて次の観光地を目指した。

 ちなみに雲で造ったものは、どっちにしろ長くは形を保てないんだそう。それでもごねる私をキズナとスタッフが全力でとめる一幕があったのは内緒だ。

 祭りの会場だった島を出て、雲の道を《星》の中央に向けてまっすぐ歩く。

 これまでの賑やかな雰囲気は収まり、ただまっすぐな雲の道を歩いて行く。音は消えさみしくはなったものの、不思議と私はこっちの方が思っていた世界と近いなと感じていた。

 ただただ、ふわりとした雲の感触を楽しみつつ、なにもない道をただ歩いて行く。

 雲を歩いているという実感を噛みしめながら、ただ道を歩いて行く。キズナも私がこれを楽しんでいるのをわかっているのか、何も言わないで黙っていてくれていた。

 ふわふわと雲の上を歩くのは、どれだけやっても飽きなかった。


 道はまっすぐで迷いようがないので、その間はとくにキズナのコメントも無し。事前知識無しで見てほしいからって言っていた。

 行くべき城は、さっきの島を出たところからずっと見えていた。それくらい大きな建物。

 城って呼ばれているけど、この距離から見た白天の城は、建物と言うよりもまさに積乱雲といった感じ、高く積み上がり重なりあった雲の塔。

 他の島が雲で造られた建造物であるとするなら、白天の城はまさに自然の雲そのものと言った感じ。

 ただし、普通の雲ではあり得ない。厚く濃く意志を持ってのびていこうとする雲なんか、普通の空にあるわけもない。そもそも積乱雲に近づくことなんてできるはずもない。

 しばらく歩くと、どんどんと城は大きくなっていき、その建物の巨大さがわかってくる。そして、その異様さもわかってくる。

 白天の城はただ高く積み上がっているわけじゃない。天に伸びるにしたがって細くなっていく、尖塔のような造形。

 そして、近づくことで初めて見えてきたものがある。

 城の外側をらせんを描くように取り巻く階段。

 天を目指して伸びていこうとする意志を、願いのため何かに到達しようとする意志を、なぜか私はこの城に感じていた。

 疲れたわけでもないのに、しばらく言葉が出なかった。これまでの軽くて楽しい雲の街、それとは方向性の違う異質さがこの城にはある気がしていた。

 本当に同じ願いからできた《星》なんだろうか? 私はそんなことをふと考えていた。


「もう、言う必要も無いだろうけど、ここが白天の城。雲にかける願いが、この《マボロシの海》に生まれた地だよ」

 私はこの街で観光を始めて、気になっていたことがいくつかあったのでこの際それをキズナに聞いてみようと思った。歴史を知るのも旅だって言うなら、きっといろいろ知っているはずだって思ったから。

「最初からこんなに大きな雲だったの?」

「いや、生まれた時は本当に小さな雲の塊だったって聞いてる。それが始まりの白雲。それが人の願いが集まるにつれて、こんな風に大きく高く伸びていったらしい」

「周りの島はいつできたの?」

「最初の雲が白天の城なんて呼ばれるくらいに大きくなった辺り。大きくなるのがある程度止まってから、今度は横に雲の大地を広げていったんだ。そして、その島には、スフィアも見たような雲の住人たちが生まれて、それからはあっという間に、今みたいな観光地になっていったって訳」

「それじゃあ、最初は今みたいに、雲で遊んで楽しむみたいな場所じゃなかったのね」

 それが一番私が気になっていたことだった。

 星間列車から見たこの雲の街、そして最初に歩いた雲の道、そのあとに遊んだお祭りの街、最後にこの白天の城。同じ夢や願いから出てきたにしては印象がかみ合わないって思っていた。

「ああ、今みたいにお祭りが当たり前になったのは割と最近じゃないかな。それまでも観光地ではあったけど、もっと渋めの、景色や最初のスフィアのような楽しみ方をする客が多かったって聞いている」

「やっぱりそうなんだね……」

「やっぱり?」

 キズナが不思議そうに聞き返してくる。

「ううん、いいの。私もまだよくわかってないし。それよりここを早く案内してね」

「ああ、そうだね。まずはそこからだ」

 キズナはまだ少し聞きたいことがありそうだったが、案内を優先したみたいだ。

 そのあとのキズナの発言は、少しだけ私に衝撃を与えるものだった。

「じゃあ、まずはこの城を登ってみようか。最上階にこの《星》の核が見られる展望室があるからね」

「最上階?」

 私は目の前の白天の城を見上げる。

 首が疲れるくらいまで見上げないと天辺は見えない。

「えっと一応聞くんだけど、中に昇降機とかなにかあるんだよね? あ、もしくは、最上階っていっても低いところにあるとか」

 少しの希望を込めて聞いてみる。

「いや、そんなのはないよ。スフィアにも見える外側の階段だけ。あと最上階はもちろんあそこ」

 キズナが指さした場所は、遙か高くの天辺近く。言われてみればなんとかそこに窓のように開いた雲の隙間が見えるような見えないような。そんな高さ。

「あそこまで登るの!?」

「ああ、そうだね。素敵な旅には体力も必要だよ」

「うそでしょーーーー!」

 私は本気の大声で叫んでしまった。

 静かな雲の街の静寂を、私の悲鳴が切り裂いたのだった。

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