いつ訊ねようかとタイミングを見計らっている間に目的の場所へついてしまったらしく、車は静かに停車しました。そこは県内でも有名なホテルで、そこのレストランに誘われたとき、一体何が始まるのだろうと怖くなりました。勝太も心なしか強ばった表情で中へ入ると、私達は奥の席へと案内されました。


 運ばれている食事はどれも高級そうなもので、こんな良い料理、いったいいくらかかるのだろうかなんてことばかり考えていました。


 それに、ここの料理は確かにどれも美味しかったのですが、普段から大食いの彼の胃を満たすことができるのだろうかと不安になり、ちらりと盗み見ると、どうやらそれどころではないのは彼の表情から察することができました。一体何に今更そんなに緊張しているのか分かりませんでしたから、私の中ではやはり犯人は勝太で、今日は満月ではありませんでしたが今から殺されるのではないか、なんてことを考えてしまったのはここだけの話にしてください。


「なあ幸嘉、この前の話覚えてる?」


 食事が終わり、デザートが運ばれてくるのを待っている間に、勝太はそんな奇妙な問いかけをしました。


「この前?」


 私の脳裏によぎったのは、ずっと訊ねなければいけないことでした。今ここで確認するのが正解なのかは分かりません。それでも今ここを逃せば、彼が二度と話してはくれないような気がしたのです。


「それって連続殺人事件のこと?」


 それの犯人が勝太なの? 私がそんな言葉を裏に隠して訊ねると、彼は本当に意味が分からないとでも言いたげな間抜けな表情を浮かべてこちらを見ました。そこまでは予想通りでしたから、私は続けて問いかけます。


「最近の連続殺人事件だけど、あれはネエネエの事件を元にしてるって話でしょ?」


「いや、違うんだけど……てか、それどういう意味?」


「違うの?」


 不安げな子犬のような表情でこちらを見てくる勝太のその反応に、嘘があるようには見えませんでした。思い返してみれば、そもそも彼は昔から笑ってしまいそうになるぐらいには素直な性格ですから、嘘をつくことも、隠し事をすることもできない人柄でした。それに、うっとうしいくらいに正義感が強くて……あぁ。私はなんて馬鹿な勘違いをしていたのでしょうか。そうです。彼が犯人であるはずなんて、最初からなかったんです。


 私は何だか急に肩の力が抜けて、安心感から笑ってしまいそうになりました。勝太はそんな私を不思議そうに見ていましたが、私からすればもう彼が何を話そうと、何でもいいぐらいの気持ちになっていました。


「幸嘉はこの事件の犯人が分かってるの?」


「まさか」


 私が答えるとさらに不思議そうな顔をしましたので、調べた経緯を少しだけ話しました。と言っても、もしかすると犯人がネエネエのことを知っているんじゃないかぐらいのことまでしか話さなかったのですが。


 そうだ。それから、勝太を疑っていたことも話しましたが、彼はそのことに対しては少しだけ複雑そうな顔を浮かべ、何か小言を言いたげな雰囲気を出しただけでした。


 その後運ばれてきたデザートを楽しみながら談笑している間、私の心は今まで感じたこともないほど温かくなっていました。それこそ、この時間がもう少し長く続けばいいのにとさえ思ってしまうほどに。

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