勝太との連絡は本当に久々で、ここまで連絡がなかったのは連絡を取り合うようになってからだと初めてのことでした。なんなら、このまま二度とこないかもしれないとさえ思い始めたぐらいでしたから。


 連絡が来たのは、私が最後に勝太と別れてからちょうど三週間が経った日のことです。その日も相変わらず調査に進展がないことと、勝太へできていない連絡に多少の苛立ちを覚えながらも、パソコンの画面を眺めていました。


 すぐ脇に置いていた携帯電話が震えたとき、私は最初上司からだと判断してしばらく無視をしていました。仕事柄、シフト制なこともあり私が休みだったとしても、その日出ている人から些細なことで連絡が来ることはまれでした。


 ただ、その日の電話は本当にしつこく、連続してかかってくるそれに、そんな急を要することは今なかったはずなのにと不思議に思いながら携帯電話を手に取ると、ディスプレイに表示されていたのは上司の名前ではなく、勝太の名前でした。


 先程もお伝えしましたとおり、向こうからはもう二度とかかってこないと思い込んでいたものですから、驚きのあまりしばらく固まってしまいました。少しの間画面を眺めていましたが、このまま切れてしまうともう二度と連絡が取れなくなってしまう気がして、ぎゅっと指に力を入れて通話ボタンを押しました。


『……久しぶり』


 しばらくの間があってから聞こえた声は聞き慣れた彼のもので、なぜだかホッとしました。私も彼と同じ言葉を返しましたが、きっと情けなく震えていたことでしょう。勝太は少しだけ嬉しそうに笑ったのが、電話越しでも分かりました。


『怒ってる?』


「何が?」


『この前のこと』


 彼の言うこの前のことが最初すぐにピンとは来ませんでしたが、私達の関係が少しだけギクシャクしたのは、三週間前のあの日ですから、おそらくその日を指しているのでしょう。私は怒ってないとだけ答えましたが、彼はまだ少し納得してないようでした。それでも、分かったと言った後、今から会えないかと私に尋ねたのです。私がすぐに「分かった」と答えますと、先程とは打って変わったように、彼が緊張したのが電話越しでも分かりました。一体どうしたのだろうと不思議に思いはしましたが、特にそれ以上訊ねることなく電話を切りました。


 聞きたいことがあるはずなのに、それ以上に彼と会えることを喜んでいる自分に気が付きました。私はその感情がなんなのか分かりません。


 メールでこじゃれた身なりで待っていて欲しいと言われましたので、身なりを整えながら待つこと三十分程。


 外から聞き慣れたエンジン音が聞こえた気がしたので、窓から顔を覗かせますと勝太が見慣れた真っ赤な車から出てくるところでした。私はそれを確認するなり、最後に鏡でもう一度だけ身なりを確認して、いつも通りに家を出ます。勝太の元へ向かうと、彼は車に寄りかかって煙草を吸っているところでした。


 別にそれはいつも通りなのですが、彼が普段着ているようなヨレヨレのスーツではなく、もっときっちりとした代物で、思わずじっと彼の姿を凝視してしまいました。それが恥ずかしかったのか、「似合ってる?」と、勝太がどこか照れくさそうに言うので、素直に頷いてみせると彼は安心したように小さく笑いました。


 どこに行くでも構いませんでしたが、この格好をするには彼なりに何か考えがあるのかもしれないと、何も聞かずにそのまま車に乗り込みました。

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