第67話 豚汁

さて、ここからは料理の時間。


 本日も大量に作るので、エルドさんと並んで厨房に立って一緒に調理をしていくことにした。


 まず初めに、食品庫に入っていた玉ねぎみたいな野菜を薄切りにして、根菜系の野菜を半月切りにしたものをさらに半分にしていく。


 このときに、イモ類の野菜があると嬉しい。食品庫にはいくつか種類があったけど、私はその中でジャガイモに近い野菜を選んだ。


 確か、日本だと地域によって豚汁に入れるイモの種類が異なるらしいが、私からすればここでジャガイモ以外の選択をすることはあり得ないのだ。


 ジャガイモが少し汁に溶けたドロッとした感じ。あの舌触りを出せるのはジャガイモしかないと私は思っている。


 ジャガイモみたいな野菜は乱切りにして、他の野菜と一緒に鍋の中に投入。鍋に水を入れて少し度煮込んだら、そこにボアポークの細切れを投入する。


 あとは、生成した合わせ味噌を溶かし入れて、ことこと煮込む。


 根菜に火が通り、ジャガイモみたいな野菜が崩れそうになるギリギリのタイミングで火を止める。


 最後に盛り付けたときに、ネギのような野菜を刻んで上にかけてあげれば完成。


 『ボアポークの豚汁』のできあがり。


「おぉ、優しい匂いなのに食欲が刺激されるな」


「ええ。汁物にしておくのはもったいない一品です」


 たまに店とかでも豚汁定食とか見るし、豚汁はご飯の主役を張れるくらいのポテンシャルを持っているのだと思う。


 そして、作っているときにそんなポテンシャルを持つ香りを嗅ぎ続けた私たちが、何もしないでいられるはずがない。


「それでは、恒例の味見の時間です」


「やったぜ、待ってました」


 私が少しおどけるようにそう言うと、エルドさんもそれに乗るように表情を緩めて喜んでいるようだった。


 異世界の調味料を使った料理を一番最初に食べることができる。これは厨房に立っている私とエルドさんの特権でもある。


 豚汁の味を知っている私であっても、特別な調味料を使った料理という物はどうしても楽しみになってしまうのだ。


 私は新しい2枚の小皿に少しの豚汁を注いで、そのうち1枚をエルドさんに手渡した。


そして、湯気に乗ってくる豚汁の香りに誘われて、私たちは顔を見合わせた後、一気に小皿に乗っている豚汁を口に運んだ。


「おおっ、うまい! 味付けは味噌だけなのに、味噌汁とは別の美味さがあるな」


「んんっ、美味しいですね。これは……白米も欲しくなる味です」


 口の中に広がるのは心地よい味噌の風味と、野菜とボアポークから溶け出てきた旨味。


ボアポークの油と、ジャガイモみたいな野菜が少し溶けた汁が絡み合った旨味が鼻に抜けていく。


次の一口を促すような後味を前に、私たちはまた小皿を傾けていた。


しかし、一口分しか注いでいない私たちの小皿を傾けたところで、そこに豚汁は残されていなかった。


「……も、もう少しだけ味見しましょうか」


「そ、そうだな。味見は大事だ」


 私たちはそんな言い訳を口にしながら、もう三口分ほど味見を堪能したのだった。


 三口で我慢した私とエルドさんの辛抱強さについては、もっと評価されてもいいのではないかと思う。

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