第68話 豚汁の炊き出し
「冒険者のみなさん、ご飯ですよー」
豚汁を作り終えた私たちは、教会のシスターさんたちと一緒に冒険者さんたちのもとに食事を運ぶ手伝いをしていた。
昨日神父さんがご飯の声掛けをした時はそんなに反応を示さなかったのに、今日はその言葉を待っていましたとでも言わんばかりに盛り上がっているようだった。
おそらく、食事を運んでいる人の中に私とエルドさんを見つけたからだろう。昨日までは食欲がないと言っていたとは思えないくらい、ウキウキとした様子で食事を受け取ってくれた。
「おおっ、またお嬢ちゃんがいるってことは美味しいやつだろ!」「匂いが良すぎる……凄い腹減ってきたな」「昨日と少し色が違うな。もしかして、また新しい物を作ってくれたのか?」
冒険者さんたちは、初めて見る豚汁を前にして思い思いの反応を見せてくれていた。
昨日作った味噌汁は赤味噌を使ったものだったこともあって、冒険者さんたちからすると全く新しい物として目に映ったらしい。
まぁ、同じ味噌を使った汁物なのに、豚汁は別の料理って感じがするし間違ってはいないんだけどね。
……改めて考えてみると、豚汁って少し不思議な立ち位置なのかもしれない。
「今日もケミス伯爵の体調を料理で回復させている、奇跡の料理人たちが来てくれました! 奇跡の料理人の方々へ感謝をしながら、いただきましょう」
神父さんの掛け声に対するレスポンスでひと盛り上がり見せた後、冒険者さんたちは待ちきれなくなったように豚汁を口に勢いよく運んだ。
そして、感動の声を漏らしながら、食べる手を止めずに豚汁をかき込み始めていた。
「うっま! なんだこれは!」「ボアポークの油と野菜の旨味がっ……このスープは旨味が凝集している!」「お、おかわりは?! 今日は何杯までおかわりしていいんだ?!」
どうやら、昨日の味噌汁以上に大好評らしい。
火傷してしまうんじゃないかという勢いでかき込んだり、一口飲んでその味に深く浸ったりしている人がいたりと、各々豚汁の味を楽しんでくれているようだった。
作った料理に対して、ここまで反応してもらえるとは……中々嬉しいな。
今回生成した味噌には以前生成しためんつゆと同じ魔法が付加されている。つまり、食べた分だけ元気になるのだ。
これなら、冒険者の人たちの体調も早く回復しそうかな。
そんなことを考えながら美味しそうに食べてくれている様子を眺めていたのだが、昨日よりも豚汁のおかわりを所望する冒険者が多い。
というよりも、タイミングとペースがかなり速いような気がする……。
「あ、あの、アン様、エルド様!」
「はい?」
そんなことを考えていると、少し焦った様子のシスターさんが私たちの元にやってきた。そのシスターさんの眉が困り眉になっていたのを見て、私は小首を傾げていた。
何かあったのだろうか?
「『豚汁』が凄い人気でして、すぐになくなってしまいそうなんです。もし可能であれば……追加で作っていただくことは可能でしょうか?」
「え、もうですか?」
作った量は昨日作った味噌汁と変わらないはずなのに、もうなくなりそうなの?
……それはまずい。だって、私たちまだ一杯も食べてないから。
私はエルドさんと顔を見合わせた後、二人で頷いてからシスターさんの方に視線を戻した。
「安心してください! すぐに作ります!」
私がそう断言すると、シスターさんが安心したように胸をなでおろしていた。
私たちに祈るようにしてお礼を言っているけど、多分シスターさんたちが考えているようなまっとうな理由ではない気がする。
でも、それも仕方がないことなのだ。美味しい食べ物の前では、人間は嘘をつけないのだから。
私とエルドさんはそんなシスターさんをその場に残して、急ぐように厨房に向かったのだった。
結果として、私もエルドさんも豚汁を二杯は食べることができて、みんな大満足の食事となったのだった。
桶のような大きな皿に注がれた豚汁を食べていたシキも、皿まできれいに舐めとるほど気に入ってくれていたようだった。
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