第49話 戦いが終わって

「エルドさん! シキ!」


 負傷した冒険者たちのおかわり分の汁物を作り終えた私は、街の門のすぐ近くでエルドさんとシキの帰りを今か今かと待っていた。


 一瞬、街の外までエルドさんとシキの様子を見に行こうかと思ったが、それは二人を信用していないような気がして、私は約束した通り街で二人の帰りを待つことにした。


遠くに見えた影がエルドさんシキだと分かった私が大きく手を振ると、エルドさんは私に気づいてくれたようで手を振り返しながらこちらにやってきた。


「おう。ただいま、アン」


 ただ森に行って帰ってきただけみたいに余裕な顔をしているエルドさんとシキの表情を見て、私は胸をなでおろしていた。


 どこを見ても傷跡や血の跡などは見当たらず、特に疲弊しているような状態でもない。


 街の冒険者たちに結構な被害をもたらした魔物と戦ってきたはずなのに、随分と涼しそうな顔をしているみたいだった。


「もしかして、結構余裕だったんですか?」


「まぁ、シキが一緒にいたしな」


「アンよ、俺があんな魔物相手に苦戦するわけがないだろ」


 私の言葉を受けたシキは心外そうな表情で軽くため息を漏らしていた。


 確かにS級冒険者とフェンリルが向かったのなら、負けるはずはないのだろう。それでも、別に強いから心配しないというわけではないとは思う。


 大切だからこそ、負けるはずがないと思っていても心配になってしまうのだ。


「そういえば、そっちはどんな感じだったんだ?」


「こっちですか? こっちはいつも通りって感じですかね。新しく作った料理がまたハマりました」


 私はエルドさんとシキを心配していたことがバレないように、少しだけおどけるように得意げな顔でそんな言葉を口にした。


すると、エルドさんとシキは驚くくらい食いついてきて、ずいっと顔を近づけてきた。


「今度は何を作ったんだ?!」


「アンよ、それは俺たちにも作ってくれるのか?!」


 エルドさんもシキも前のめりになって真剣な顔をしていたので、私は少しだけおかしくなって笑みを零してしまった。


 シキにいたっては、まだ作るとも何も言っていないのに尻尾をぶんぶんと振っているし、餌を焦らされているワンちゃんのような反応だった。


 さっきまで街の冒険者が隊を作っても倒せなかった魔物を倒してきたばかりの人が、自分達の功績なんかよりも私みたいな子供が作った料理に夢中になっているなんて、なんだか不思議な気分だ。


「今はもう残ってないですけど、また作りに来て欲しいと言われたので、その時なら喜んで作りますよ」


 私がそう言うと、二人とも満足げな表情をして安心したようだった。


 エルドさんとシキが喜んでくれるのなら、この後またすぐにでも作りに行ってもいいかもしれない。


 それとも、今日はエルドさんとシキが好きな物を作ってあげるのもいいかも。


 そんなことを考えながら、私は二人が無事に帰って来てくれたことに安心して、静かに微笑んでいた。


 こうして、私たちのポイズンモスとの戦いは幕を閉じたのだった。


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