第48話 初めての連携

「作戦というからどんなものかと思ったが、随分と乱暴な作戦だな」


「しょうがないだろ。普段は作戦なんか考えずに魔物の群れに突っ込んでいっていたんだから」


「何も考えずに突っ込む……その戦い方は魔物と変わらんではないか」


シキがポイズンモスの気配を感じ取ったので、俺たちはゆっくりと歩きながらポイズンモスがいる場所に向かっていた。


その道中で作戦を説明したのだが、俺の作戦を聞いたシキは呆れるように少し眉を潜めているようだった。


「でも、これが一番い方法だと思うんだよ。シキだって魔法を使うときは、一瞬は魔力を解放するんだろ?」


「……まぁ、エルドがそれでいいのなら構わんがな」


 シキは納得したというよりも、折れる形で俺の作戦に乗ってくれることになった。


 正直、作戦を立てて魔物とやり合うという方法はあんまり得意ではない。でも、それなりに悪くない作戦だとは思ったんだがな。


「もうすぐそこにポイズンモスがいる。俺は出番までは魔力を極力抑えることにするから、あとは任せたぞ」


「ああ、大丈夫だ。すぐにシキの出番になるからな」


 シキはそう言うと、魔力を押さえ込んで俺の後ろを歩き出した。


 そして、歩いて少しするとすぐにポイズンモスの姿を発見した。


 ここに来る途中で多くの魔物を捕食してきたのか、その姿は俺が知っているポイズンモスの2、3倍の大きさがあった。


 蛾の姿をしたその魔物は白と黒の模様をした羽で空を飛んでおり、触角をぴょこぴょことさせて何かを探しているようだった。


 多分、捕食できる魔物を探しているのだろう。


 遮蔽物がない所で優雅に獲物を探す様子は、自分が強者であることに酔っているようにも見えた。


「……この感じなら楽に倒せるな」


 俺は誰にいうでもなく独り言のように呟くと、剣を引き抜いてポイズンモスに近づいていった。


 ポイズンモスは敵が現れると、羽から毒の粉を振りまく。そうして、相手が弱るまで上空で待機して、相手に毒が回りだしてから襲ってくるのだ。


 俺の想定通り、俺の姿を確認したポイズンモスは俺の上で羽をパタパタとさせて、独の粉を振り撒いていた。


 寄生されているとは言えども、魔力が跳ね上がったポイズンモスの毒の粉を浴びれば、動きが鈍るまでにそこまで時間を要さないだろ。


 多分、上空でポイズンモスは自分の勝ちを確信しているはずだ。


 そう思った俺は、アンのおかげで毒にはかからないのだが、かかったフリをしてその場に倒れ込む演技をした。


 それにしても凄いな。毒の粉を頭から浴びているというのに、なんともないなんて。


 そんなことを考えながら、ポイズンモスが近づいてくるのを待っていると、間もなくしてポイズンモスの羽の音と共に、ポイズンモス本体が近づいてきた。


 距離にして十数メートル、数メートルと近づいてきて、その口が俺のすぐ近くに来た瞬間、俺は顔を上げて横に大きく跳んだ。


 狙うのは、片翼。


「『閃剣』」


 ズザァァァッッン!


 俺が剣を振り下ろしながらその技を繰り出すと、一瞬光った俺の剣から出た斬撃がポイズンモスの大きな片翼を吹っ飛ばした。


「ギィシャアアアア!!」


 金切り声のような声を上げているポイズンモスをそのままに、俺は剣を切りつけた勢いを活かして、そのままポイズンモスの背後を取った。


 ハリガネワームは寄生した際、その魔物の背筋に沿った場所に生息していると言われている。


 俺はその場所に回り込むと、そのまま剣をポイズンモスの背中に突き刺して腹まで一気にその剣を押し込んだ。


 ポイズンモスの中で剣に串刺しにされているハリガネワームは、当然動くことができないだろう。


「今だ、シキ!!」


 俺はそう叫ぶと同時に前方に大きく跳んだ。


 そして次の瞬間、何か吹き飛ばされそうな強い風が吹いたと思って振り返ると、そこにいたはずのポイズンモスは姿を消していた。


「ハリガネワームが寄生しているからどんなものかと思ったが、所詮はこんなものか」


「シキ? ポイズンモスはどこ行ったんだ?」


「先程蹴散らした。そこにエルドの剣だけ落ちているだろう」


 シキに言われてよく見てみると、ポイズンモスがいたが場所には俺が突きさしたはずの剣だけが残っていた。


 あの状態から剣だけを残して、ポイズンモスを蹴散らしたということは……細切れにでもしたのだろうか?


 ……どうもシキの強さは底がまるで見えないな。


「まぁ、とりあえず無事に倒してくれたみたいだな」


「ああ。あの強さなら、エルドだけでも問題なかった気もしたがな」


「しょうがないだろ。今回の俺たちの勝利条件は互いに無傷であることだったんだから」


 そう、多分互いにポイズンモス相手なら一人でも倒すことはできただろう。


 それでも、アンが心配しないように互いに無傷で生還するというミッションを達成するためには、互いに協力する必要があったのだ。


「帰るか、アンの所に」


「ああ」


 こうして、俺たちはぎこちないながらの連携を活かして、互いに無傷でポイズンモスの討伐を完遂したのだった。


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