第47話 エルドとシキの戦い

「アンの方は上手くやってるんだろうなぁ」


 アンに見送られた俺とシキは街から近くにある森に来ていた。


 目的はポイズンモスとそれに寄生しているハリガネワームを討伐することだった。


 街を出たくらいのタイミングで、シキに背中に乗るようにと言われた俺はシキの背中に乗って、結構な速度で森の中を走っていた。


 まさか、フェンリルの背中に乗って森を走る日が来るとは思いもしなかった。


「何も心配することはあるまい。アン以外の適任者はいないだろう」


「そうだな。アンなら何も問題はないよな」


 エリーザ伯爵の体調を回復させた実績もあるし、何も心配する必要はないだろう。


 それに、街を出る前にもアンに驚かされたしな。


 ポイズンモスの討伐に行く前に食べさせてもらった『照り焼きバーガー』。それには、状態異常耐性というどんな状態異常の効果にも耐えられる効果が付与されていたらしい。


 まさか、美味しい食べ物を食べるだけでそんな高価なポーションみたいな効果が得られるなんて思いもしなかった。


毎度のことながら、アンの作る料理には驚かされてばかりだ。


 そんなアンが街のことは任せてくれと言って、俺たちを送り出してくれたのだ。


 ここで期待に応えなければ、応援してくれいているアンに申し訳ない。


「さて、そろそろポイズンモスが出たという場所に着くし、作戦を決めておく」


「作戦? そんなものはいらないだろ。俺が魔法で一撃で沈めてくれる」


 シキは何でもないことを言うかのように、そんな言葉を口にしていた。


 まぁ、ポイズンモスの毒が効かないという今の状況なら、シキなら何も考えずに突っ込んでも余裕で勝利を収めることができるだろう。


 例えそうだとしても、今回はそういうわけにはいかない。


「いや、ハリガネワームが寄生している状態だ。慎重にいった方がいいだろう。ハリガネワームが強い魔力を持つ魔物に寄生しようとするのは知ってるだろ?」


「エルド、お前は俺がハリガネワームなどに寄生されるとでも思っているのか?」


 俺の言葉を受けて、シキは不服そうな声色でそんな言葉を返してきた。


 相手は寄生虫。そんなものにフェンリルが負けると思われていること自体、結構な不満だとは思う。


 プライドの高いと言われているフェンリルにかける言葉じゃないことくらい、俺だって分かっている。


 でも、そのプライド以上に大切にしていることがあることくらい、数週間一緒に生活をしてきた俺には分かっていた。


「シキが寄生される可能性はまずないだろうな」


「ならば、何も問題はないだろう」


「それでも、相手が一矢報いようとして、シキがかすり傷くらいは負うことがあるとは思う」


「かすり傷くらい何も問題はない」


「完璧の形で送り出してくれたアンを悲しませてもか?」


「……」


 俺がそう言うと、シキは何も言えなくなって黙ってしまった。


 そう、シキはアンの育ての親なのだ。娘が悲しむ姿など見たくはないと思うのは、フェンリルも人間も同じこと。


 そして、俺たちが怪我をして帰れば、アンが多少なりとも自分のことを責めてしまうということが分からないはずがない。


「それにシキに丸任せにしてシキが怪我をしたら、俺がアンに顔向けできない。もっと言えば、俺だってアンに報告するだけの活躍をしたい」


 あくまで俺のために力を貸してくれ。こう言うことで、フェンリルとしてのプライドも守ることができるはず。


 そんなことを考えて、俺が少しだけ演技がかったような口調でそう言うと、シキは少し噴き出すように笑い声をあげた。


「ふっ……どうやら、エルドは口下手で不器用らしいな」


「……なんでそんな反応になる」


 完璧な作戦のはずだったのだが、シキの返答が俺の思った返答と違っていた。というか、返答を聞く限り、色々とバレてしまっているような気がする。


「そこまで言うなら、作戦とやらがあるのだろう? 作戦くらいは聞いてやらないこともない」


思ったような形とは異なったが、作戦を聞いてくれるというのなら、結果的には問題はないか。


 そう思った俺は、作戦というには少し単調的過ぎる作戦をシキと共有するのだった。


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