第44話 教会の調理場

「まさか、こんな所で会えるなんて思わなかったよ! いやー、もう二度と食べれないと思って絶望していたんだ! そうだ! これも何かの縁だとおもうんだよ! ぜひ冒険者たちの食事を作って欲しんだけど――」


「ハーネスさん。この子はまだ子供です。強要するように迫るのはやめてあげてください」


 まさか、私にまた会えると思っていなかったのか、おじさんはその感動で私の肩を掴んで私を揺らしていた。


 それだけ私の作った料理の味に満足してくれたのは嬉しいんだけど、シスターさんが心配になって止めるくらいの熱量はさすがに少し困るかも。


 それでも、せっかくおじさんが作ってくれた流れを逃すわけにいかない。


 私はシスターさんが私を揺するのを止めてくれたチャンスを活かそうと、くらっときていた頭をぶんぶんと振ってから、シスターさんの方をぐっと見つめて口を開いた。


「いえ、やらせてください! 魅惑のソースを使った私の料理なら、きっと冒険者たちの体調も回復させることができます!」


 私が自分の意思が少しでも伝わるようにじっとシスターさんのことを見つめると、シスターさんは意外そうな顔をした後、優しい笑みを浮かべた。


「魅惑のソースの名前を出されたら、断れませんね。それに、それだけやる気になっているんですもの」


「は、はいっ、やる気満々です」


「でも、一人で冒険者たちの分を何品も作るのは大変だろうから、作るのは一品とかでいいんじゃないかな?」


「そうですね。……それなら、汁物を任せていただいてもいいですか?」


「そうね、じゃあお願いしてもいい? 食材は好きに使ってくれていいからね」


 シスターさんは私に笑みを浮かべてそう言うと、私に食品庫や調理器具の場所などを丁寧に教えてくれた。


 初めに私たちの提案を拒否したときと何かが違う気がするのは、私が魅惑のソースの店で働いていたことが判明したからなのだろうか?


 いや、もしかして、私が大人に言われて連れてこられたと思って、色々心配してくれたのかな?


 確かに、普通の私ぐらいの子供が自ら負傷した冒険者たちのご飯を作りたいとは思わないかもしれない。


 子供の私をただ純粋に守ろうとしてくれたのだろう。


 ……このシスターさん、どうやらただの良い人らしい。


「とりあえず、こんなところかな。あとは、分からないことがあればなんでも聞いてね」


「はい、ありがとうございます」


 凄い丁寧に色々と教えてもらったので、多分分からないことはもうないと思う。


そんなことを考えながら、私はさっそく汁物を担当することになったので、大きな鍋を手に取った。


 汁物を担当するとは言ったけど、何を作ろうかな?


 症状から考えると、この前エリーザ伯爵に作っためんつゆが今回の冒険者たちの症状にも合っていると思う。そうなると、めんつゆをベースにした物を作ってみようか。


 いや、もしかしたら、雑炊の味をベースにしてそれをスープにすればいいのでは?


 ご飯を入れないで水を少し多くしたら……うん、いける気がする。


 食品庫を確認してみたら、何か大根みたいな根菜を発見した。

うん、これを加えたら普通に汁物として出せると思う。


 そう思った私は、さっそくエリーザ伯爵の屋敷で作っためんつゆを生成しようと――ん? なんか凄い視線を感じるような気がする?


 気になって振り向いてみると、そこには調理場にいたほぼ全員のシスターさんと神父のおじさん、ロンさんが私の手つきをじっと見ていたみたいだった。


 これは、もしかしなくても、凄い注目を浴びている。


 どうやら、それだけ魅惑のソースを作る私の料理の腕が気になるみたいだった。


「えーと、家に大事な物を忘れたので少しだけ家に戻りますね。す、すぐ戻るので」


 私はそんな適当な言い訳をして、大きな鍋をアイテムボックスにしまうと、隠れるようにして教会の裏でせっせと必要な分のめんつゆを生成したのだった。


 ……隠し続けるというのも、結構大変らしい。


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