第41話 私たちの戦い方

 衝撃の事実が発覚した。


 なんとエルドさん、S級冒険者だったのだ。


「そうだけどって、どうして教えてくれなかったんですか?!」


「別にS級といっても、そんな特別なものじゃないぞ。……一時、魔物を馬鹿みたいに狩り倒していた時期があって、そのときにS級になっただけだ」


 エルドさんは面白くなさそうな顔でそんなことを言うと、私から視線を逸らした。


 いや、魔物を狩り倒していた時期ってどんな時期?


 そういえば、私のレベルを聞いて下手なA級がどうとか言っていたけど、あれって自分の方がレベルが上だからあんなこと言えたのかな?


 後から考えてみれば、B級とかC級の人が下手なA級って表現するのはおかしい気がする。


 結構長く一緒にいるつもりだったけど、全然気づかなかった。


というか、初めて会った時に私S級冒険者を襲おうとしていたってことになるんじゃ……。


「とにかく、話を戻そう。もちろん、ポイズンモスの討伐には協力する。この街の冒険者もその被害に遭っているのなら、なんとかしないとだしな」


「ありがとうございます! そう言って頂けて、助かります!」


 ロンさんはエルドさんが協力を引き受けると、深く頭を下げていた。


 確かに被害の状況を聞く限りだと、S級冒険者のような強い助けが必要になるだろう。そんな冒険者がいてくれるというだけで、かなり心強いと思う。


「それなら、俺も出よう」


「シキ、お前も来てくれるのか?」


 話がひと段落しようとしていると、遠くで興味なさそうに丸まっていたシキがすくっと立ち上がった。


「ハリガネワームは魔力の強い者を襲おうとする。俺が街中に残るとなると、アンがポイズンモスの毒を浴びる可能性もある。それなら、俺が出ていって蹴散らしてくれる」


「それは心強いな」


シキの助力があればどんな相手だろうと負けることはない。そう思ったのか、エルドさんは心から漏れ出たようにそんな言葉を口にしていた。


「つ、使い魔が人間と同じ言葉を……」


ロンさんは突然人間の言葉を話し始めたシキに驚いているようだったが、私はそれよりも気になることがあった。


「あれ? なんか私が街に残る前提で話進んでない?」


 エルドさんもシキも出るなら、当然私も出るつもりだった。


それなのに、私が戦力として戦うということを想定していないような話の流れだった気がする。


私が勘違いかなと思って聞いてみると、エルドさんとシキは顔をしかめて口を開いた。


「「当たり前だ」」


「え? いやいや、ま、待ってください! 私だって戦えますよ!」


 見た目は子供にしか見えないけど、私にはエルドさんお墨付きのA級冒険者並みの力があるのだ。


 街が困っているという状況で、二人とも戦うのに私だけが戦わない理由がない。


「いや、さすがにお嬢ちゃんは危ないから、街の人と一緒に避難してもらわないと」


 私の力を知らないロンさんは私がただ我儘を言い出したと思ったのか、私を落ち着かせようとそんな言葉を口にしていた。


 ただの子供を扱うような口調を前に、私は思わず感情を高ぶらせてしまっていた。


「違うんです! 私にはちゃんと力があって――」


「アン」


 『創作魔法』が使えることを話せば私を戦力として見てくれると思った私は、そのことを言いかけた所をエルドさんに止められた。


 確かに、こんな状況で言うべきことではない。


 それでも、他に私の力を示すものがないんだから、仕方がないじゃないか。


 子供の体のせいで感情が体に直結しやすいせいなのか、私は自分だけ仲間はずれにされたような感覚に耐えられなくなり、目に涙を浮かべてしまっていた。


 情けないと思っていながら、そう思えば思うほどその涙はどんどんと溜まってきた。


 そのまま涙が零れ落ちてしまうと思った瞬間、温かい大きな手が私の頭の上に置かれた。


「勘違いするなって。アンにはアンにしかできないことがあるだろ?」


「私にしかできないこと?」


 エルドさんのそんな声に引かれて顔を上げると、そこには優しそうな笑みと困り顔を半々にしたようなエルドさんの顔があった。


「ポイズンモスの毒を浴びてしまった冒険者は、この街に退いてきたんですよね? 容体は?」


「今は一時的に教会をお借りして、そこに負傷者を運んでいます。解毒ができても、回復しきっていない冒険者が多い状況です」


 エルドさんはロンさんからそんな話を聞いた後、再び私の方に視線を戻した。


「負傷者の対応は俺とシキにはできないことだ。頼めるか? アン」


 そこまで言われて、ようやくエルドさんとシキが私を街に残そうとしていることの意味を理解した。


 私は仲間外れにされたのではなく、私もこの街の被害を最小限に抑えるための戦力として見てくれているのだと。


 子供だからと遠慮しているわけではなく、むしろ私の働きに期待しているのだということを理解した。


「……ぐすっ、分かりました。でも、私も一緒に戦わせてください」


 私は零れ落ちそうだった涙を袖で拭って、唇をきゅっと閉じてからちゃんと顔を上げた。


泣きそうだった顔を上げて、私は両手で頬をパンっと叩いてから言葉を続けた。


「私なりの、私にしかできない方法で、私も二人と一緒に戦います!」


 二人がポイズンモスの毒にやられないように、私なりの方法で二人を応援することを誓うように、私はそんな言葉を口にした。


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