第28話 新たな挑戦

「なるほど。アン様が魅惑のソースを作っていたのですか。すみません、てっきりエルド様が色々と作っているかと勘違いをしておりました」


『創作魔法』の件は伏せて、私は魅惑のソースのことについて少しだけアルベートさんに説明をした。


 その中で、私がマヨネーズとケチャップを作ったことを告げると、アルベートさんは目を丸くして驚いていた。


 まぁ、こんな子供が噂になるほど有名なソースを作ったなんて考えられないだろう。


 そんな反応になるのも分かる気がする。


「店主はエルドさんってことになってるので、問題ないです。それに、料理が日に日に上手くなっていくので、もう本当に店主さんって感じです」


 私がそう言うと、隣にいたエルドさんは僅かに得意げな顔をしていた。


 本当に何をどうしたらあれだけ上手くなるのか分からない。


 エルドさんは朝から午前中までは私と一緒に店をやって、午後も夕食を食べるまでは私と一緒にいる。


 夜は大人の付き合いとか言ってどこかに行ってしまうから、料理の練習をする暇なんてないはずなのに。


 この成長速度だけはまるで説明がつかない。


「ただそのソースを使っても、期待されているような解毒ができるかどうか分かりません。元々、治癒魔法はおまけみたいな物なので」


 おまけもおまけ。ただマヨネーズとケチャップを作ったときに、偶然できてしまったもので、そこに強い効果を期待している訳ではないのだ。


 だからこそ、そこを頼られてしまうと、期待される結果をもたらせる気がしないのだ。


「というか、解毒とかだったら教会とかに頼んだ方がいいんじゃないか? いや、ポイズンモスくらいなら冒険者でも治せる者だっているだろ?」


 エルドさんはなぜ私に頼むのか不思議そうに眉をひそめながら、そんな言葉を口にした。


 まさにエルドさんの言う通りだと思い、私も激しめに頷いてみたのだが、アルベートさんは小さく首を横に振っていた。


「毒の状態は良くなったのですが、衰弱が酷くてそこから回復してもらえないのが現状です。なので、解毒を目的に頼んでいるのではありません。少しでも食べ物を食べてもらえるような、体力が付く料理を作っていただきたいのです。何卒お力をお貸しください」


 アルベートさんは真剣な目でそう言うと、また私たちに深く頭を下げてきた。


 その頼み方はただの執事と言うにしては、やけに気持ちが入っているような気がした。おそらく、本気で主を何とかしたいのだろう。


 それだけ慕われるエリーザ伯爵と言う人がどういう人なのか、それに興味を持ったということもある。


 でも、それ以上に私にできるかもしれないことなら、私にしかできないようなことなら、引き受けたいと思った。


「分かりました。そういうことでしたら、可能な限りやらせていただきます」


 そして、やると決めた以上は徹底的にやった方がいいに決まっている。


 ただ市場で売っていたケバブ風焼き鳥を作るのではなく、もっと他の調味料を生成してそこに治癒魔法以外の魔法を付加できるか試してみよう。


 それは以前考えていたことでもあった。調味料を作るときに魔法の質を変えたら、他の魔法の付加もできるんじゃないかという疑問。


 それをいきなり実践する時がやってきたのかもしれない。


 上手くいくかは分からないけど、できる限りのことはしてみよう。


 その相手がいきなり領主様になるとは思っていなかったけど、ここまで来たらやるしかないんでしょう。


 そんなやる気を引っ提げて、私たちはエリーザ伯爵の屋敷へと向かって行くのだった。


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