第21話 市場での秘策
そして、やってきた屋台デビュー初日。
色々と調理器具を揃えるのにお金がかかってしまったのだが、それはエルドさんが負担してくれると言ってくれた。
さすがに悪いような気がしたのだが、すぐに売上金で補填できるから気にするなとのこと。
どうやら、それだけケバブ風焼き鳥が売れることに自信を持ってくれているみたいだった。この世界の人間から見ても、ケバブという物は中々に美味しいらしい。
目の前には簡易的な鉄板と、フライ返しと大きめの包丁。あとは、昨日のうちに大量に作っておいたマヨネーズとケチャップが置かれていた。
どうやら、私のアイテムボックスは時間停止の機能が付いているらしいので、鮮度については問題はなさそうだったので、昨日のうちに作ってしまっていた。
薄切りにしてある鳥系統の魔物の肉には、塩で味付けをしているだけにしている。
本当はもっと色んなスパイスを使って肉を漬けたりするのかもしれないけど、多分シンプル過ぎる味付けが主流のこの世界では、ただのマヨネーズとケチャップだけでも十分な反応をしてくれると思う。
マヨネーズとケチャップだけなら私も作れるし、材料はシキが取って来てくれるしで原材料はほぼ無料で手に入るようなものなのだ。
ケバブサンドとして売り出すか迷ったけど、主食はその世界の文化を残した方がいいかもしれないという考えから、とりあえずケバブのおかずだけ売り出すことにした。
ゆくゆくはケバブサンドとして売り出すのもいいかもしれない。
「じゃあ、最後の味付けと提供は私、薄切りの肉を焼くのはエルドさん、番犬はシキでお願いします!」
「料理はできないが、肉を焼くことぐらいはできるから任せてくれ」
「俺は犬ではないぞ、アン」
張り切った様子のエルドさんに対して、シキは少しだけ不貞腐れているようだった。
まぁ、屋台をしている間はシキは何もやることがなくなってしまうので、その気持ちが分からないことはない。
何もしないで寝るなら、家でゆっくり寝たいよね?
でも、シキ自らついていくと言っていたし、そんなに乗り気でないことはないのかもしれない。
なんだかんだ言いながら、私のことを気にしてくれているのだろう。
そんな二人の反応を見ながら、私は小さく咳ばらいを一つしてから口を開いた。
「さっそくですが、今日の売上目標を発表します。今日の売り上げ目標は0円です!」
「「……は?」」
私が得意げにそんなこと口にすると、二人は口を開けてポカンと驚いていた。そんな反応になるのも当然だ。
それなりの準備期間と、材料費以外にもお金がかかっているのに、それを無料で提供しようというのだから。
それでも、今日だけは無料で提供する必要があるのだ。
マヨネーズとケチャップの概念がないこの国で、私たちの料理を手にとってもらうには、こうするしかない。
「正直、未知のソースがかけられた商品を食べようって人はかなり少ないと思います。エルドさんもシキも初めはマヨネーズをおっかなびっくり舐めましたよね?」
「まぁ、見たことのない物を口に運ぶのは多少なりとも怖いだろう」
「なので、今日は試食品として無料で提供することにします。量は少ないですが、無料で食べられるものがあるなら、食べてもいいかなって思うでしょ?」
そう、この世界の人たちはある程度の美味しさがあれば、それ以上の物を追求しようとしていない人たちが多い。
それなら、無料で提供されている鳥の塩焼きは欲しいと思うはずなのだ。例え、そこに見知らぬソースがかけられていたとしても。
もしかしたら、そのソースをどけて食べられるかもしれない。
それでも、マヨネーズとケチャップを完全にどけることはできずに、一度はその味を食べてしまうと思う。
そうなればこっちのものである。
「マヨネーズの美味しさを知った人たちは、必ずまたこの味を求めてやってくるはずです」
「確かに、あの味はまた食べたくなる味だったな」
「この世界の人々をマヨネーズの虜にしてみせますよ」
マヨラーというマヨネーズを愛してやまない人々を作ったマヨネーズという調味料。その真価を発揮するときが今来たのだ。
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