第20話 商人ギルド

「……商人ギルド。まぁ、アンが登録するならこっちだよな」


 満場一致で私の作った『ケバブ風焼き鳥』は売れるだろうという意見になり、マヨネーズとケチャップを作れることが分かった翌日、私達は商人ギルドにやって来ていた。


 異世界のギルドと言うにしては落ち着いていて、カウンターでお客さんを対応しているギルド職員たちの対応は、まるでお役所仕事の現場のように柔らかい物だった。


 エルドさんは私を連れてカウンターに向かうと、私の体を持ち上げてから言葉を続けた。


「商人ギルドの登録をしたい。見習い候補生としてこの子の分と、俺の分を頼む」


「え? エルドさんが商人ギルドに登録するんですか?」


 受付にいたお姉さんは私ににっこりとした笑みを見せた後、エルドさんの言葉を受けて固まってしまっていた。


 何か信じられない物を見るような目をエルドさんに向けたまま、聞き間違いじゃないかと疑っている目をしている。


「……何か問題が?」


「い、いえ、そう言う訳ではないです。商人ギルドの登録ですね、こちらの書類に必要事項の記入をお願いします」


 エルドさんが少し不貞腐れてるような返答をすると、お姉さんはすぐに切り替えたように記入用紙をエルドさんに差し出した。


 それを受け取ったエルドさんは私を床に下ろしてから、さらさらと記入用紙に必要事項を記入していった。


「えっと、お嬢ちゃんは誰の見習いになるのかな?」


「私はエルドさんの見習いをやるんです」


「エルドさんの? あっ、だから、商人ギルドに登録されるんですか?」


「まぁ、そんな感じですね。用紙、これでお願いします」


 用紙の記入を終えたエルドさんがお姉さんから渡された用紙を渡してしまったのを見て、私は少し慌てるようにエルドさんのズボンを引っ張った。


「私が書く欄とかはないんですか?」


「基本的な情報は俺が書いておいたから、問題ないぞ」


 すっかり何か私もやらなければならないと思っていたのだけれど、どうやら保護者の人が色々と記入をしてくれればいいらしい。


 それでも、私を連れてきたのはあくまで顔だけでも出して置く必要があったのかもしれない。


 ギルドのお姉さんがエルドさんの書いた用紙の確認作業を待っていると、お姉さんが何かに気づいたように顔を上げてエルドさんの顔を覗いていた。


「え、飲食店ですか? エルドさんって料理得意だったんですね」


「いや、ほとんどできない。まぁ、アンがいるから安心だとは思うけど」


「なるほど、アンちゃんができるんですね。あれ? 見習いの子の方ができる?」


 お姉さんは何かがおかしいようなと首を傾げていたが、書類上は何も問題がなかったのか、それ以上追及することはなかった。


「はい、書類は問題ありません。商人ギルドのギルドカードはこちらになります。後は年会費なのですが……」


 それから、お金のやりとりと追加の説明を受けて、私たちは無事に商人ギルドに登録をすることができた。


 エルドさんと同じ一番下のブルーのギルドカードをもらって、それを眺めているとカウンターにいるお姉さんが少し私の方に体を寄せてきた。


「エルドさんのことよろしくね」


「? はい」


 私の方が面倒を見てもらう側なのに、なんで私がよろしくと言われているのだろう?


 そんなことを考えながら、エルドさんの方に視線を向けると、エルドさんはもらった書類に目を向けて独り言を呟いていた。


「与えられた場所は市場の端か……まぁ、それはしょうがないとして、料理に必要な物も揃えないとな」


 私がやりたいと言ったことなのに、エルドさんは本気の顔で色々と考えていてくれているみたいだった。


そんな表情を見せられて、私は何としても飲食店を成功させてやるという気持ちでいっぱいになったのだった。


「エルドさん、よろしくお願いします」


「ん? ……ああ、こちらこそよろしくな」


 そんな私の気持ちに気づいていなさそうなエルドさんだったが、私の顔を見て何かを感じ取ったのか、口元を緩めてそんな言葉を口にした。


 こうして、私とエルドさんの商人としての道がスタートしたのだった。


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