第19話 創作魔法の正体

「ん? 美味い物を食べたせいか、心なしか元気が出てきた気がするな」


 食べきれるかどうか分からないくらいの量があった『ケバブ風焼き鳥』は、エルドさんとシキがいたおかげもあって、無事完食することができた。


 どうやら、子供の体をしている私では食べたくても量が食べれないらしく、作ったものが残ってしまうかと不安だったから助かった。


「回復魔法に近い魔力を感じるな。アンよ、料理に何かしたのか?」


「回復魔法? いや、そんなことしてないけど」


 食後に少し休もうと思って地面に座っていると、エルドさんとシキがそんなことを言い始めた。


 私はただ普通に料理をしただけなので首を横に振ったが、シキがそんなはずはないと折れる様子がなかった。


 そんなこと言われても、何もしてないものはしてないしなぁ。


 そんなことを考えながら、微かに残っていたマヨネーズとケチャップをじっと見つめていると、【全知鑑定】が反応してしまったらしく、鑑定の結果が表示されてしまった。


【魔法マヨネーズ……日本のマヨネーズを模して作った物。付与効果 治癒魔法小】

【魔法ケチャップ……日本のケチャップを模して作った物。付与効果 治癒魔法小】


「え、治癒魔法?」


 ただのマヨネーズとケチャップを作ったはずなのに、なんかネーミングも少し変わってるし、知らない魔法が付けられてる。


 私が思いもしなかった展開に固まっていると、私の異変に気づいた二人がこちらに視線を向けてきていた。


「なんか知らないうちに治癒魔法が付与されてるんだけど、これ何かな?」


「治癒魔法?! 回復魔法じゃなくてか?」


「は、はい」


 先程までお腹がいっぱいになって満足そうな顔をしていたエルドさんは、急に驚いたようにして立ち上がった。


 あれ? もしかして、何かマズいことしちゃってるのかな?


「いや、別に何か悪いことをしたとかではないんだが……」


 少し不安げにエルドさんを見てしまったせいか、エルドさんは少しだけ悪いことをしてしまったように眉をハの字にした後言葉を続けた。


「治癒魔法は怪我だけでなく、毒や病気も治す万能の魔法だ。使える者も限られている魔法のはずなんだ」


「ええっと、つまりさっき食べたのは、美味しくて健康になれる料理ってことですか?」


「まぁ、そうなるな。いや、それどころじゃない気もするが」


 ケバブという少しジャンキーな食べ物を食べて健康になれるって、最高では?


 そんなことを一瞬考えたが、なんでマヨネーズとケチャップをかけるだけで、そんな魔法の付加が掛けられたのか分からない。


 だって、ただ材料をイメージして魔法で……もしかして、魔法で作ったから?


 材料を集めたりしないで、私の【創作魔法】を使ってマヨネーズとケチャップを作った。ということは、私の魔力が原材料ということになる。


 つまり、さっきは私の魔法を食べているということになるわけで、その魔力が害のない形として吸収されるために治癒魔法になったってこと?



 料理は愛情を込めるとは聞いたことあるけど、まさか治癒魔法が込められるとになるなんて。


 ……こんなこと普通起こるのだろうか?


「なるほど、食べるだけで元気が出る料理の正体って言うのは、治癒魔法だったのか」


「食べるだけで元気が出る料理?」


「ほら、伝承があるって言っただろ。創作魔法の伝承」


「あっ」


 そう言われて、以前にエルドさんに創作魔法の伝承を聞いたことを思い出した。


 確か、見たことのない魔法を使ったり、食べるだけで元気が出るような見たことのない魔法の料理を作ったと言われているらしい。


 もしかして、元気が出る料理の正体って、そのときに使われてた魔法の調味料?


 思いもしない展開で明かされていく創作魔法の伝承の真実を前に、私は驚きつつも治癒魔法が付加されたのが偶然ではないことを悟ったのだった。

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