第18話 少しだけジャンキーな料理

 さて、ここからは料理の時間。


 まず、石プレートが温まってきたのを確認して、森に来る前に買っておいた油を石に垂らして油を熱する。


 そこに薄切りしておいたイャンバードとクックバードのお肉を並べられるだけ並べて焼く。


 事前に少々の塩で味付けをしてあるので、このまま焼かれたお肉を食べてしまってもいいのだけれど、それだと市場に売っていたのと変わらない。


 焼き上がったお肉を重ねて、ケバブの肉の大きさにカットして、さらによく石の上で焼くこと数分。


 出来上がったお肉をお皿の上に盛り付けた後に、ケバブ風に仕上げる一工夫。


 まぁ、工夫と言ってもただケバブソースをかけるだけなんだけど。


「ええっと、ケバブソースって少し辛かったよね?」


 昔好きだったケバブソースを想像しようとしたけど、今の私の口には辛くて刺激的過ぎる気がする。


 それなら、もっと子供にも受けがいい感じがいい。


 そう言えば、ファミレスとかのポテトってマヨネーズとケチャップが一緒にもらえた気がする。


 あれって、ケバブソースと近いような気がするな……。


「マヨネーズは成功したから、ケチャップが出せればあのソースを作れるかな?」


 そんな考えの元【全知鑑定】を使って、ケチャップを鑑定してみると目の前に鑑定結果が表示された。


 【全知鑑定 ケチャップの材料……トマト 玉ねぎ にんにく お酢 砂糖 塩 唐辛子】


 お、多いな材料。


 ケチャップって意外と色んなものが入ってるんだ。


 これだけ多くの材料が入っている物を作ることができるのか、少し不安ではあるけどちょっと頑張ってみるか。


 そう思った私は、ケチャップの材料を確認しながら【創作魔法】を使って、ケチャップの生成をしてみることにした。


 想像するのはケチャップの材料と味と触感と香りと舌ざわり。それらを想像しながら、小皿に向かって手のひらを向けると、その小皿が微かに光ったようだった。


 覗いてみると、そこにあったのは前世で見慣れたケチャップの姿をしていた。


 指の先でそのソースを軽く突いて、指の先についたソースを舐めてみるとそれは私が知っているケチャップの味だった。


「うん、ケチャップも成功っと。あとは、マヨネーズも作れば完成かな?」


 私は同じ感じでマヨネーズも用意すると、それらを別々に焼き上がったお肉の上にかけた。


 初めからマヨネーズとケチャップを混ぜてもいいんだけど、私的には別々にかけてもらった方が好きだからという個人的な理由で、あえて別々に。


 少し量が多いんじゃないかというくらいに生成したソースをかけて、完成。


『ケバブ風焼き鳥』


「どれ、一口味見をしてみますか」


 私はよくマヨネーズとケチャップのかかっているお肉を口に運んだ。


「んんっ、これは中々っ」


 口のにはジューシーな鳥の肉汁が広がり、それと調和するような塩気の塩梅が丁度良い。そして、その調和をかき乱すようなマヨネーズとケチャップをぶっかけたジャンキーさが加わって、自然と次のお肉をかき込むように本能が刺激してくる。


「……中々、うま過ぎるのでは」


「おっ、先に食べてたのか。なんだ、やけにうまそうに食べるな。ん? なんだ、また知らない色のソースがかかってるな」


「これはケチャップっていうソースです。ケチャップだけでも美味しいんですけど、私的にはマヨネーズも一緒の方が好きでして」


 少しだらしない顔を見せてしまったと思って、私は緩んだ顔を軽く叩いて戻すことに勤めた。


 私の方にやってきたエルドさんは初めて見るケチャップに興味を持ったのか、盛り付けてあるお肉を見つめて少しソワソワしているようだった。


 私が肉を盛り付けた皿をエルドさんの方に差し出すと、エルドさんは喉を鳴らした後に一切れソースのかかった肉を口に運んだ。


「……うまいな! なんだこれは!」


 エルドさんは口の中で作られるオーロラソースの味に感動したらしく、次々と肉を口の中に運んでいった。


 確かに、初めてオーロラソースを食べて時の衝撃は私も同じような物があったかもしれない。


 それも、マヨネーズもケチャップもない文化の人にこの味を出したら、きっとかなり衝撃を受けるのだろう。


「お、もう料理ができていたか」


「シキ、アンの料理かなり美味いぞ!」


 再びイャンバードを口に咥えて帰ってきたシキに突っ込むことなく、エルドさんは私の料理に夢中になっていた。


 さっきまで高ランクの魔物だろと言って少し引いていたのに、それよりも私の料理に方が気になるみたいだった。


 ここまで美味しそうに食べてもらえると、私としても作りがいがある。


 エルドさんが前のめり気味に料理を食べていたのが気になったのか、シキはイャンバードを地面に置いて、シキ用に盛り付けておいたお肉を豪快に口に運んだ。


「どれ……これは?! アン、なぜこんな美味しいものが作れるのにずっと黙っていたのだ?!」


「いや、最近になるまで思い出せなかったんだって」


 どうやら、シキもお肉にかけられたソースを気に入ったのか、一心不乱でさらに盛られたお肉を食べていた。


 シンプルな味付けしかないような環境で、少しジャンキーな味付けの料理を食べればそんな反応にもなるよね。


 何はともあれ、どうやら私の料理はかなり好評みたいだった。


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