第17話 外での料理

「おー、俺が解体しているうちに凄い物ができてるな」


 私がセッティングを終えてエルドさんの解体を待っていると、解体を終えたエルドさんがこちらにやってきた。


 少し離れた所に作られた簡易的な料理場を見たエルドさんは、そんな言葉を漏らして感心している様子だった。


 調理場と言っても簡易的過ぎる者なんだけど、褒めてもらえるのなら、作ったかいがあるというもの。


「でも、なんで水に濡れてるんだ?」


 そう、少しのどや顔をしている私の服は中々に濡れてしまっていた。


 別に悪戯に濡れている訳ではない。ちゃんとした理由があるのだ。


 焚火のように小枝を入れて火を焚く準備だけして、その周りを子供でも運べそうな石で囲っていた。


そして、そのすぐ近くには程よく大きな鉄板の役割をしてくれそうな大きな石があった。


 火を焚いた後にこの石を焚火の中に投げれば、簡易的な石焼プレートができるぞと思って、ウキウキ気分でその石を洗おうとしたのだ。


 フェンリルとして生きていた時は、何も考えずに水を魔法で出せていたのは創作魔法によるものなのかなと考えて、意識的に創作魔法を使ったらすさまじい勢いの水が出てきて、石に跳ね返った分をもろに浴びてしまったのだった。


「人間っぽく魔法を使おうとしたら、制御間違えました」


「俺が人間っぽくしろと意識させ過ぎたかもな……なんか、すまん」


 なんかあれだなぁ、人間って難しい。


 なぜかエルドさんに謝らせてしまって少しだけ雰囲気が重くなった気がしたので、私は話題を変えるために話を戻した。


「本当は薄切りにしたお肉を鉄のでかい串で突き刺すんですけど、今日はそれがないのでこれで我慢してください」


「薄切りにしたうえで、肉を刺すのか? 初めて聞くな……なんて料理だ?」


「ケバブです」


「ケバブ?」


 エルドさんは初めて聞いた単語に小首を傾げていた。


 そんな反応になるのも当然だろうなと思いながら、私は少しだけ得意げな顔で言葉を続けた。


「私の前世の記憶の海外料理です。可能な限り近づけて見せるので、期待していてください」


 私がそう言うと、エルドさんは真剣な顔で少しだけ考えこむような表情をした。


 そのエルドさんの表情に小首を傾げていると、エルドさんは合点がいったとでもいうかのように小さく頷いた。


「どうやら、前世の記憶っていうのも本当みたいだな」


「どうやらって……やっぱり、疑ってたんですか?」


「いや、6、7割りは信じてたかな。子どもと言うにしては、さすがに態度とか言葉が大人っぽ過ぎるとは思ってたし」


 私が前世の記憶があるんだと告白したとき、やけに軽く流すなと思っていたと思ったら、やっぱり本気で信じてくれていたわけではなかったらしい。


 でも、突然言われたにしては結構信じてもらえている方なのだろうか?


 どうなんだろ、基準が分からない。


「私って子供っぽさが足りてないですかね?」


「大人っぽいは誉め言葉。そのままでいいんじゃないか?」


 私が少しに気にするようにそんなことを言うと、なんでもないことを言うかのようにエルドさんはそんな言葉を言ってくれた。


 そして、私の隣に立つと、小枝を積んでいた場所に手のひらを向けた。


「『火玉』」


 エルドさんがその魔法を口にすると、一瞬で大きな日が上がった。メラメラと燃える火を確認したエルドさんは近くにあった大きな石を持ち上げると、火の周囲を囲っていた石の上に私がよく磨いた石を置いた。


 徐々にその石が温まっていくのを見つめながら、私はその近くで温まって服を乾かすことにした。


「料理はあんまりしたことないけど、可能な限り手伝うから色々教えてくれ。アンほどの知識なんてないから、期待はしないでくれよ」


 そんな言葉と共に向けられた笑みはただの幼女としてではなく、前世の記憶を持った私に向けられているような気がして、私は少しだけ口元を緩めてしまっていた。


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