第15話 人間離れした能力

「材料の調達に来ただけだから、エルドさんは家で待っててくれてよかったんですけど」


 商人として売れる料理を作れることを証明するため、私は昨日までいた森の中までやって来ていた。


 『死の森』まで深くは潜るつもりはないので、特に危険があるようには思えない。というよりも、むしろちょっとした里帰り気分かもしれない。


 里帰りというほど期間は空いていないので、忘れものを家に取りに帰るレベルかもしれないけど。


「いや、今後のことも考えてアンの戦いっぷりを見ておこうと思ってな」


「戦い方ですか?」


「あんまり獣すぎる戦いだとすると、今後のことも考えると少し気になるなと思ってな。ほら」


 エルドさんはそう言うと、どこからか短剣を取り出すとそれを私に手渡してきた。


 手渡されたそれを手にしてみて、初めて手にする短剣の感触を握って確かめてみると、短いわりにちゃんと重さもあるんだなと実感する。


「短剣ですか?」


「いい機会だから、人間らしい戦い方も覚えた方がいいと思ってな。昔使ってた短剣だ。悪くはないものだと思うから、使ってくれ」


「初めて使うんですけど」


 剣なんて初めて使うんだけど、感覚的には今まで素手でやってたことを短剣で代用する感じでいいのかな?


 そういえば、今までは魔法も使ってたけど素手でも戦っていたんだっけ。


 人間の子供が素手で魔物と対峙する……そんなことありえるのだろうか? なんか、自分が本当に人間なのか自信がなくなってくる。


「魔物の気配だ。魔力を押さえていたかいがあったな、アン」


 シキに言われて魔物の気配を辿ると、確かに小さな魔物が私達の方に来ていたのが分かった。


 私とシキが魔力を抑えないで歩いていると、それだけで魔物達は寄ってこない。だから、いつも狩りをするときは魔力を抑えて、私達は普通の魔物ふりをするのだ。


 そうすることで、私たちを襲ってくる魔物も釣れるし、ただ横切るだけの魔物もやってくる。


 そうして、私たちの前に現れたのはニワトリを一回り大きくしたような魔物だった。


「クックバードか。短剣を試すのにはちょうどいいんじゃないか?」


「そうかもしれませんね。それじゃあ、今回作るのは鳥料理です」


 クックバードはこちらから危害を与えない限り攻撃をしてこない。昔、初めて狩りをした時の相手もクックバードだったなと思いながら、私はゆっくり短剣を鞘から引き抜いた。


 えっと、いつも素手で戦ってるみたいに戦う感じで……。


「『風爪』」


私はいつも戦っていたときみたいに魔法を使って、その魔法を剣に乗せて飛ばした。


ザシュッ!


飛ぶ斬撃となったそれは、一瞬でクックバードを弾き飛ばした。


それをもろにくらったクックバードは、そのまま後方に倒れて動かなくなった。


 そして、私が剣に乗せた魔法はそのまま後ろにあった木々をなぎ倒していき、それが倒れる音が森に響いた。


「……え?」


「それでは、ちゃん美味しくいただくことにしましょう」


「まてまて。なんだ今の魔法は?」


 私が倒した魔物に近づこうとしていると、やけに驚いた反応をしているエルドさんの顔があった。


 エルドさんが人間らしくというから、短剣を使って魔法を使ってみたのだけれど、何かおかしかっただろうか?


 ん? そうだ、そうだ。この魔法の破壊力は普通の幼女の力にしては大き過ぎる。いや、でもひょっとしたら、人間の幼女の魔法の威力ってこのくらいだったり?


「魔法速度、魔法の威力、その他諸々。普通の魔法使いが打つ代物ではないだろ」


「で、ですよね」


 ついフェンリルとして育てられた癖が出てしまったが、今はちゃんと幼女として過ごさなければならないのだ。


 そうは分かっているんだけれども、体に染みついた動きが反射的に出てしまう。


「驚くことではない。自分よりも弱い物でも手を抜き過ぎない。倒される魔物に対する敬意すら感じるな」


「十分に驚くことだっての。アン、これから少しずつ人間らしい戦い方を学んでいこう、な?」


「人間らしく、ですか」


 おかしいな。私も人間のはずなのだけれど。


 そんな感じで、私は少しだけエルドさんに人間らしい戦い方をレクチャーしてもらうことになったのだった。


 暇を持て余したシキが何か魔物を狩ってくると言い、それを見送った後もそのレクチャーは少しだけ続いたのだった。

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