第14話 商人としての可能性

「な、なんだこれは」


 突然皿の上に現れたマヨネーズを目の当たりにして、エルドさんは驚いてそんな言葉を口にしていた。


 私の様子を見ていたシキも突然現れたマヨネーズを不審がっているのか、小皿に近づいて匂いを嗅いでいる。


「これがマヨネーズという調味料です。少し舐めてみてください」


 私がそう言うと、エルドさんとシキは顔を見合わせた後、少しマヨネーズを恐れるようにしながら、指にマヨネーズを付けてペロッと舐めた。


「うまっ」


「こんな美味しい物を出せるなんて聞いてないぞ、アン」


 マヨネーズを舐めた二人は、驚くようにしながらそんな言葉を口にしていた。それどころか、一口に留まらず何口も舐めている。


「これが数々の人間の心を奪ってきた魔法の調味料、マヨネーズというやつです」


 私はまるで自分が発明でもしたかのようなどや顔でそんな言葉を口にした。


 まぁ、この世界で作ったのは私なわけだし、多少はどや顔してもいいよね。


「ていうか、今どうやって出したんだ? 何もない所に急に出たように見えたけど」


「私、創作魔法が使えるみたいです。なんか突然使えるようになっていたようで」


 おとぎ話に出てくるような魔法だと言っていたから、一瞬隠しておいた方がいいのかとも思ったけど、さすがに言い訳のしようがない。


 それに、エルドさんなら正直に言っても何も問題ないような気がした。


「創作魔法?! A級冒険者並みの力があるだけじゃなくて、そんな魔法まで使えるのか」


「はい。他にも色んな調味料を出せると思います。それと、アイテムボックスもあるから物を運ぶのも任せてください」


 私はまだこの世界のことについて詳しくないし、できれば頼れる大人が一緒にいて欲しい。


 それに、せっかく稼げるかもしれない案ができたのなら、その喜びを他の知らない商人の人と共有するよりも、エルドさんと共有したい。


「なので、一緒に屋台をしませんか?」


「……なるほどな、屋台でこの調味料を売るってことか?」


「いえ、そうではなくてこの調味料を使った料理を出したいなって」


 将来的には調味料だけで売るのもいいかもしれないけど、保存期間も分からない物を市場に下ろすことはできないし、熱処理の仕方とかいろいろ考える必要があると思う。


 でも、料理として提供するならその日の分だけでいいから、そこまで悪くはならないと思う。


 下手に調味料を売って変な菌とか繁殖しちゃっても嫌だし、まだ調味料で単体で売るのはやめておこう。


そうなった場合、多分責任を取らされるのはエルドさんのような気がするし、下手には動けない。


「アンがやる気なら、食材の調達は俺に任せてもらおう」


小皿を綺麗に舐めとっていたシキは顔を上げると、前のめり気味にそんなことを言ってきた。


鼻の先にマヨネーズが付いちゃってるのは、ご愛嬌ということで。


「任せるって、そんなツテあるのか?」

 

「ツテなどない。ただすぐ近くに森があるだろう」


「なるほど。現地調達ってことか」


「昨日今日とご馳走になったお礼だ。今日は俺とアンで料理を振舞ってやろう。それを見てから決めるがいい」


 調味料は私が魔法で作って、料理の素材はシキが取ってくる。それなら、市場に並んでいる食事と変わらない値段で提供することもできるはず。


 あれ? それって原材料費がかからない分、儲け分が丸々私たちのもとに入ってくるってこと?


「色々と驚くことはあるけど、結局はアンの料理の腕次第だな」


 そんなことを考えてしまっている私に、二人は期待の籠った視線を向けてきた。


 よっし、ここまで来たら何が何でも二人が納得する料理を作ってみせる。


 そんな決意をして、私は二人を納得させるための料理の素材を求めて近くの森に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る