第12話 見習い候補生
「なるほど、それが見習い候補生って奴なんですね」
新しい服を追加で買ってもらった私は、そのまま少し街を散策した後にエルドさんの家に戻って来ていた。
そして、先程服屋で言っていた『見習い候補生』という聞き慣れない単語について説明を受けていた。
「ただ名前だけ置いておくだけでも十分だ。冒険者の見習いか、商人としての見習いか、アンはどっちがいい?」
「それって、後から両方なることもできるんですか?」
「見習いは基本どっちかだな。そのあとに、冒険者ギルドと商人ギルドの両方に登録するっていう人もいるけど」
なるほど、これから冒険者として生きていくのか、商人として生きていくのかの分岐点という訳ではないらしい。
それなら、やっぱり冒険者の見習いになっておいた方がいいのだろうか?
これでも、フェンリルとして狩りをしてきた経験もあるわけだし、得意分野を生かすとなれば圧倒的に冒険者だと思う。
ただ気になることが全くないわけではない。
「冒険者の場合って、私くらいのレベルでも平気なんですかね?」
そもそも冒険者の人たちのレベルがどのくらいなのか分からないし、今の自分が冒険者基準でどのくらい強いのか分からない。
「その点は大丈夫だぞ。みんなレベル1からスタートするんだし、何も恥じらうことは――」
「レベル102ってどのくらいの強さなんだろ?」
「「……え?」」
あれ? 今エルドさんが思ってもいなかったことを口にした気がする。
確認の意味も込めてエルドさんに視線を向けると、エルドさんも驚いた顔で私を見つめていた。
これって、互いに互いの発言を予想で来てなかったパターンだ。
「レベル102? まてまて、それって下手なA級冒険者よりも上だぞ?」
「え、そうなんですか? ええっと、もしかしてA級が一番下とかだったり?」
「いや、上から数えて二番目だ」
「「……」」
え、私まだ冒険者でもないし、その見習いになろうって段階ですでにA級冒険者並みの力があるの?
そんな事態に驚いていると、エルドさんは少し考えるような素振りをした後に言葉を続けた。
「この際だから、冒険者について説明をしておくか。冒険者は冒険者ギルドからの依頼を受けてその依頼を達成することで報酬を得ることができるんだ。ランクはG~A、Sの順番で上がっていく。だから、冒険者でもない見習い候補生がいきなりAから始まるなんて事例は聞いたことがないんだが……」
あまりにも特殊な例だったのか、エルドさんは頭を悩ませているようだった。
多分だけど、フェンリルのように育てられた私は普通の冒険者以上に魔物を狩って育ってきた。
その結果、私はA級冒険者並みのレベルという物を手にしていたらしい。
「何も驚くことではないだろう。アンはフェンリルの俺が育てたんだ。子どもと言えども、A級冒険者と互角の力があって問題はないだろう」
「いや、人間でその年齢でそのレベルは異常なくらい高いぞ」
シキが当たり前のことのように言ってきた言葉を軽く聞き流した後、エルドさんは少しだけ真剣な顔で私の顔を覗いてきた。
「アン。もしも、このまま冒険者見習いとして登録をしたら、アンは将来国を背負う冒険者にさせられると思う」
「そ、それは、あんまり嬉しくないです。この国のことも知らないのに、いきなり未来が決まっちゃうのは」
まだこの街のことも知らないのに、いきなり国を背負わされるなんて事態は避けたい。
冒険者として生きるのも悪くはないんだけど、なんだか将来を期待されて殺伐とした世界に送り込まれたりするのは、あんまり好ましくないかも。
何よりも、今の私子供過ぎるし。
「だよな。そうなると、商人見習いか……商人かぁ。誰か見習い取ってくれる人探さないとかなぁ」
「何を言っているんだ? 俺はエルド以外の知らない人間にアンを任せる気などないぞ」
「いや、そうは言っても俺商人じゃないし」
「それなら、なればいいだろう。商人に」
シキに当たり前のようにそんなことを言われたエルドは目を丸くしていた。ぱちぱちと瞬きをしていて、言われた言葉の意味が分かっていない様子だった。
冒険者として生きてきたのに、突然そんなことを言われて驚いていているのだろう。
でも、誰か知らない人に色々教わるよりも、ここまで色々と助けてくれたエルドさんにお願いしたのは私も同じ気持ちだった。
「あ、あのっ、提案があるんですけどっ」
それなら、私もこの流れに乗るしかない。
そう思った私は、この街を見て考えていた一つの案を提案することにしたのだった。
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