第11話 街での評判
「エルド、お前は一体街の人にどう見られているんだ?」
「……随分唐突だな。さては、さっきの話聞いてただろ?」
俺が店の外にいるシキの隣に並ぶと、シキは突然そんな言葉を口にした。
どう考えても、先程までの話の流れを知らないとその言葉は出てくるはずがない。そう思って、シキの方ちらりと見るとシキは当然だとでもいうかのように胸を張っていた。
「店の中に入れなかったのだから、アンの安全を考えて聞き耳を立てるのは当然のことだ」
「当然ってことはないとは思うけどな。けどまぁ、分からない感情ではないか」
この娘大好きのフェンリルの言っていることは理解できないはずなのに、もしもその対象が妹だったらと思うと、理解できてしまうから恐ろしい。
「それで、子供の面倒を見るだけで意外がられるのか? エルドは」
「……酒を飲んでフラフラしてるか、狂ったように魔物を狩ってる姿しか知られてないんだよ。驚かない方がおかしいだろ」
そう。俺はこの街に関わらず人間関係というものが得意ではない。
もっとフレンドリーな奴が子供の面倒を見ていれば問題はないのだろうけれども、俺みたいなのが面倒を見ているとなると少し浮いてしまうのだ。
だから、少しだけ強引な理由をこじつけたりした。
見習い候補生というのは、冒険者や商人の見習いとしてギルドに登録をする制度だ。見習いの内は、一人で依頼をこなすことはできないので、文字通りの見習いである。
社会経験を積ませることを目的として制度で、本来は商人の子供などがその制度を使って少しずつ人脈を作ったりする制度である。
まぁ、俺が子供の面倒を見ていてもおかしくないとさせるには、その制度を使っているのだということにした方がいいだろう。
……自分と関係のない子供にそんな制度を使うこと自体あまりないのだが、咄嗟に出た言葉だから多少おかしくても仕方がない。
「『早いうちに社会に慣れておいた方がいい』と言っていたから、勝手に社会で上手くやっているのかと思っていたが」
「まともじゃないからこそ、言えることもあるんだよ」
俺がやさぐれるようにそんなことを言うと、シキは隣で小さく笑っていた。多分、俺よりも長く生きているであろうシキからしたら、そんなことはすでに知っているのだろう。
いや、もしかしたら、そんな考えの先のことを考えているのかもしれないな。
「それなら、この機会にお前も成長することだな」
「いや、成長って、俺今年で三十近いんだぞ」
「俺からすれば、アンもお前も変わらん子供だぞ」
子供と言われたことに反論しようとしたが、どこか遠くを見ているようなシキの横顔を見ているとそれがからかっているのではなく、本心であることが分かった。
そして、そんな顔を見せられてしまうと、これ以上何かを言うことができなくなってしまう。
「俺も、この機会に多少は人間というものを知るのも悪くないと思っている」
急に俺が黙ってしまったからか、シキは突然そんな言葉を口にした。なぜこのタイミングでそんな言葉を口にしたのか考えてみると、それが何だったのか案外すぐに分かった。
「娘のためか? いや、それとも人間の酒かご飯でも気に入ったとかか?」
「……どうやら、自覚がないらしいな」
シキは独り言のようにそんな言葉を漏らすと、ぐっと猫の様に背筋を伸ばしてすくっと立ち上がった。
そして、それと同時に店の扉が開いて、少しぐったりした様子のアンが顔を覗かせた。
「お、終わりました~」
「可愛い服選んでおいたから、期待して!」
アンと対照的にツヤツヤした様子の服屋の店員を見て、アンに似合う物を見繕ってくれたのだろうと思って、俺は小さく笑みを零してしまった。
「何の話してたの?」
「ただの世間話だ」
そんな父と娘の会話を聞きながら、俺は店の中に入って一人会計を済ませるのだった。
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