第10話 調味料の存在価値
私達は市場で買った野菜スープを片手に、少し離れたベンチに座って朝ご飯を食べていた。
その途中で売っていたシンプルなパンも一緒に食べたので、朝ご飯としては十分な量だったと思う。
道中で少しだけ店を覗いてみたりした結果、その道中で少し気になったことがあった。
「なんだ? まだ足りなかったか?」
「いえ、お腹いっぱいです。今日のご飯も美味しかったです」
昨日と今日でこの街の市場のご飯を食べたけど、どれも美味しかった。でも、味付けが塩味ばかりなのはなぜだろう?
せっかく素材が美味しいのだから、もっと他にも調味料を使ったら美味しそうなものだけれど。
「あの、エルドさん。塩以外の調味料を使ったお店ってないんですか?」
「いや、あることはあるけど……あんまり庶民向けの料理でそういうのはないな」
「そうなんですか? えっと、調味料が高いとかなんですかね?」
「まぁ、コショウとかは高いけど、別に長期保存とかするわけじゃなければ、味が付いていれば食べれるしな」
「味が付いていれば?」
「まぁ、ある程度美味しければそれでいいかなって感じかな」
当たり前のようにそんな返答をしたエルドさんの答えを聞いて、私は何かどこかで似たような話を聞いたことがあるなと思った。
あ、思い出した。貧困問題について昔授業で習ったときだ。
貧困な国とそうでない国との見分け方は、食事に美味しさを求めるかどうかだという見分け方があるらしい。
簡単に言うと、貧困な国は食事が美味しいから食べるのではなく、生きるために必要だから食べるという考えらしい。
別に虫を食べる民族だってそれを好んで食べている訳ではない。生きるために食べているのだ。
そう考えると、この街と言うのは一定の美味しさ基準を超えれば、それ以上は求めないという人が多いのかもしれない。
日本ほど裕福な国ではないけれど、必要以上の美味しさを求めるほど潤っている国ではない。そんな感じだろう。
それに、塩味だけでこれだけ美味しいのなら、味の追及をしようとは思わないかもしれないかも。
でも、日本という食のバリエーションが多い国から来た私にとっては、美味しいものはより美味しく食べたいと思ってしまう。
今度は自分でいろいろ作ってみようかな?
「それじゃあ、そろそろ街の案内をするか。まずは、そうだな……」
エルドさんは私をじっと見た後、私の手を引いて市場から少し離れるようにして歩き出した。
それから少しして、店舗を構えている店が並ぶ通りを歩いていくと一つの店の前で立ち止まって、その店の扉を開けた。
「あれ? エルドさんじゃない――え? なに、この可愛い子!」
「は、初めまして、アンです」
店の中にはずらりと服が並んでいて、すぐにその店が服屋であることが分かった。服を畳んでいた若い女性の店員さんは私とエルドさんを見ると、凄まじい勢いで私の顔の目の前にやってきて、ずいっと顔を覗いてきた。
「なんでエルドさんが子供といるの?!」
「あれだ。見習い候補生的なもんだ」
「見習い候補?」
聞いたことのない単語を前に小首を傾げると、エルドさんから話を合わせるようにというアイコンタクトをされて、私はその意思をくみ取って頷いた。
「とにかく、女の子の服のことよく分からないんだ。この子が生活できる分だけの服とか下着とか一式揃えて欲しい」
「一式揃えて欲しいって……まさか、エルドさんがねぇ」
何かしみじみとした言葉を向けられたエルドさんは、買うものが決まったら呼ぶようにと私に言って、逃げるように店の外に逃げてしまった。
なんだろう。何か照れ臭いことでもあったのだろうか?
「じゃあ、アンちゃん! 色々と合わせてみようか!」
そんなノリノリのお姉さんに言われるがままに、私はエルドさんが逃げてしまった理由も分からないまま、着せ替え人形のように色んな服を着させられるのだった。
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