第9話 朝市
「おー、これが朝市」
エルドさんの家から少し歩いていくと、そこには海外の朝市のような景色が広がっていた。
大きな道の両端に露店が並び、野菜や果物を売っているお店や料理を振舞っているお店が並んでおり、朝から活気があった。
何かを焼いているお店の匂いに釣られて行った先では、すぐに別の匂いに誘われてふらふらっと足を運んでしまう。
これは、エルドさんと手を繋いでいないと朝市の端までふらふらと歩いて行ってしまいそうだ。
「何か食べたい物見つけたら教えてくれ。今日はアンの好きなものにしよう」
「本当ですか?」
「ああ。シキもそれでいいだろ」
「俺はそれで構わない」
私のすぐ後ろから聞こえてきた声にちらりと振り向くと、シキは周りの市場の匂いを気にすることなく、私をただじっと見つめていた。
もしかしたら、シキも私が迷子になってしまわないか気にしているのかもしれない。
前世の記憶があることは話したけれど、シキからするとそれでも私は子供のようにしか見えないのだろう。
エルドさんにもそのことを話したけど、なんか子供がつく嘘みたいに扱われてしまった気がする。
正直に言っても信じもらえないと、少しだけ複雑な気持ちだったりもする。
そんなこと考えていると、周囲から視線を向けられているような気がした。
辺りを見渡してみると、やはりそれは気のせいではないみたいで、私たちを見ながら何か言っているのが分かった。
「あの子可愛いわね~」「あんな可愛い子この街にいたか?」「あれじゃないか、昨日可愛い子が来たって噂になっていた子だろ」
聞こえている声に耳を傾けてみると、えらく私のことを褒めてくれる声が多いみたいだった。
容姿を褒められるのは悪い気はしないんだけど、なんとも照れ臭い。
「う、後ろの魔物は……な、なんだあれ」
少しだけ恥ずかしがる感情を隠すように俯いていると、そんな感じの驚くような声もちょこちょこと聞こえてきた。
その声のする方に視線を向けてみると、やはり視線の先は私たちの後ろにいるシキに向けられていた。
まぁ、街中に急にフェンリルが現れたら当然驚くよね。
「エルドさん。もしかして、シキって結構目立ってます?」
「まぁ、こんなでかい魔物を引き連れている訳だし注目は浴びるだろうな。念のために、昨日のうちに冒険者ギルドに話だけしておいたし、問題にはならないだろう」
「話をですか? いつの間に……」
そんな暇あったかなと思って見ると、そういえば私の服を買いに行ってくれたとき、少し帰ってくるのに時間がかかっていたような気がする。
もしかしたら、そのときに私の知らない所で動いていてくれたのかな?
「それよりも、食べたいものは見つかったか?」
そう言われて辺りをきょろきょろと見てはみるものの、屋台に並んでいる食べ物がどんなものなのかはまるで分らなかった。
【言語理解】のおかげで文字は読めはするんだけど、それがどんな料理なのか想像ができない。
どんな料理か分からないかなと屋台に並ぶ一つの料理に目を凝らしてみると、そのすぐ近くにステータスを見たときみたいな画面が表示された。
【鑑定結果 葉物の野菜と鶏肉のスープ……鶏肉のようなひき肉をつみれのようにした物と、葉物の野菜からなるスープ】
え、なんか画面が表示された。
ちらっとエルドさんとシキの方を見てみたけど、どうやら二人にはその画面が見えている様子はなくて、私だけに見えているみたいだった。
鑑定結果ってことは、これがスキルにあった【全知鑑定】?
このスキルって食べ物にも使えるんだ。でも、『全知』ってつく割には普通の鑑定のような気もするんだけど……。
「エルドさん、あれはどうですか?」
「あれは、野菜スープか。そうだな、今の俺にはあのくらいの方が助かるかもしれないな」
とりあえず、スキルの詳細よりもお腹の虫をどうにかしたい。
そう思った私は、昨日深酒をしたであろうエルドさんとシキのためにも、比較的お腹に優しい朝ご飯を選んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます