第8話 早く起きた朝は

「……お酒くさい」


 街に下りてきて新しい洋服とご飯を食べさせてもらった私は、そのままエルドさんの家のベッドで寝てしまっていた。


 夜の早い時間に寝させてもらった私は、ぐっとベッドの上で伸びをした後にベッドから下りてすぐにその匂いに気づいた。


 ソファーで寝ると言っていたはずのエルドさんは地べたで寝ていて、それに覆いかぶさるようにしてシキも寝息を立てていた。


 そして、そのすぐ近くには空になった酒瓶が何個も倒れていた。


 私が寝てから随分と楽しんでいたらしい。まぁ、起きていたとしても、この体じゃお酒は飲めないんだけどさ。


 昨日は互いに距離があったはずなのに、何があったらこうなるのか。


体をくっ付け合って寝ている二人を見て、私は口元を緩めながら溜息を漏らすのだった。


「まぁ、仲良くなったのなら、いいんだけどね」


 少し呆れるようにそんな言葉を漏らした後、私は二人の体を揺すって起こすことにした。


 このまま放っておいたら、何時に目を覚ますか分からないし、何よりもお腹が減ってしまった。


「シキ、エルドさん、起きて。朝だよ」


「んっ……あ、朝か」


「……あ、ああ」


 二人は私に体を揺すられて目を覚ますと、しばらくそのままぼーっとしていた。


 二人とも、起きてるんだよね?


「昨日は、少し飲み過ぎたな。シキが思った以上に飲めて驚いた」


「エルドに負けるはずがないだろう。しかし、人間にしては多少は骨があるようだ」


 ただお酒を飲んでいただけなのに、骨があるかどうかなんて分かるわけないと思ったけど、二人がそれで納得しているのならそれでもいっか。


「今日は、あれだな……えーと、案内。そうだ、アンに街を案内するんだった。その前に、あれだな……朝ご飯を買ってこよう」


「エルドさん、大丈夫ですか?」


 なんだかぼーっとしているし、昨日のお酒が抜けきっていないんだろう。立ち上がって朝の支度を始めたのは良いけど、少し足元がふらついている気がする。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと待ってくれな。今買ってくるから」


「それなら、私も一緒に行っていいですか?」


「ん? そうだな。朝飯を買いに行くついでに、市場の方だけでも朝のうちに案内しておくか」


 エルドさんは少し考えた後、私に手を差し出してきた。


 あまりにも自然に差し出された手だったので、私も特に何も考えずにその手を握り返していた。


 ごつごつとして、手の皮が硬くなった感触はどれだけ剣を振ればできる物なのだろうか。まるで想像もできない。


 そんなことを考えていると、先程までのぼーっとしていたエルドさんの顔が、少し引き締まっているように思えた。


 一瞬目を大きくさせた後、口元を緩ませたエルドさんはそのまま優しそうな笑みを浮かべていた。


「手を繋いでいないと、エルドさんフラフラして危ないので」


「……ああ、そうだな」


 千鳥足気味のエルドさんが街の人とか、建物にぶつかりそうだしね。


 そんなことを考えながら私は握った手を放さず、そのまま温かいエルドさんの手に引かれて街の市場へと向かうのだった。


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