第6話 異世界の料理

「おお、見違えたな」


「アンは元から可愛いだろう」


「いや、確かにそうだったけど。今の方が可愛いくないか?」


「まぁ、その意見は否定はしないが」


「これを見れただけでも、人里に下りてきたかいがあっただろ?」


「エルド、貴様が粋がるな。アンが可愛いからだからな」


「二人とも……そんなに褒められると恥ずかしぃ」


 体を洗い終えた私は、エルドさんが買ってきてくれた服に着替えて、二人の前に立っていた。


 買ってきてくれた服は白のブラウスと、赤色のジャンパースカートのようなスカート。シャツの上から着るワンピースみたいなものだと思ってもらうと分かりやすいかもしれない。


 服の質感と組み合わせといい、ただ無作為に選んできたようには思えない。


 案外良い趣味をしているのかもしれない、エルドさん。


 鏡があったので覗いてみると、そこで私は自分の容姿と初めて対面した。


 くりんとした丸くて大きな目は、ぱっちりとした二重をしていた。柔らかそうなほっぺをしている丸顔で、肩の長さまである黒い髪は艶があった。


 子供としても可愛らしいが、少し成長したら女性としてかなり可愛くなる未来が約束されたような容姿。


 確かに、こんな子が急に街に現れたら門にいた人たちみたいな反応にもなるよね。

 

 しばらくの間エルドさんに買ってもらった服に見惚れていると、鏡越しにいるエルドさんの優しそうな笑みと目が合って、私は鏡から視線を外してエルドさんの方に振り向いた。


「エルドさんっ、ありがとうございます」


「どういたしまして。それじゃあ、今日はもう飯にしちゃうか。さっき屋台で買ってきたからさ」


 エルドさんはそう言うと、机の上に置いてある簡易的な容器に入れられた何かを指さした。


 まだ温かいのか湯気が漏れていて、それに乗って運ばれてきたような食欲を誘う香りが部屋中に充満していた。


 正直、買ってきてもらった服よりも香りの元となっている料理の方が気になってしまっていたまである。


「とりあえず、シキの分は多めに買ってきたけど、足りなくても今日はこれで我慢してくれ」


「よい。腹が減ったら自分の分は自分で調達してくる」


「……あんまり目立たないように頼むぞ」


 そんな二人のやり取りを聞きながら席に着くと、エルドさんが私の席に簡易的な容器に入っている物を渡してくれた。


「これは、何の肉ですか?」


「クックバードだ」

 

 中を覗いてみると、そこにはケバブのように薄切りされたお肉が並べられていた。クックバードというのは、鶏のような魔物で簡単に捕まえられる割に中々味が良い魔物でよく森の中でも食べていた魔物だ。


 ……そういえば、魔物を普通に食べていたんだよね。前世の記憶を取り戻した今になって考えると、多少は思うところがあるけど。


 それでも、この味を知ってしまった後だと、躊躇う理由にはならないのだ。


 渡されたフォークでそれを一口食べてみると、こんがりと焼かれた風味とジューシーな肉汁に程よい塩の味が口に広がり、思わず口元を緩めてしまう美味しさを感じた。


 あれだ。祭りで食べる屋台の荒々しい感じの味付けの感じだ。


「美味しいですね! 味付けが塩しかないのに、こんなに美味しいなんて」


「だろ? あとはパンがあるから、これも食べてくれ」


 エルドさんはそう言うと、いつの間にか用意してくれていたバスケットの中に入っているパンを持ってきてくれた。


 パンを一口食べてみると、パンも素朴な味ながら中々美味しかった。小麦の味しかしない質素なものだが、おかずと食べることでその質素な味も気にならなかった。


 むしろ、おかずの味を引き立ててくれているかのようだ。


 クックバードのお肉もケチャップとかマスタードがあれば言うことなしだけど、このシンプルな味付けはそれはそれで好きかもしれない。


 私はそんな料理に舌鼓を打ちながら、ふと私の隣で床に座ってクックバードの大盛りを食べさせてもらっているシキを見て思うのだった。


 ……これって、シキの分だけでも結構お金かかってるよね?


 それに、私の服もそうだし、住むとこまで提供してもらっている。


 こんなに与えてもらうだけでいいのだろうか? あとでエルドさんに私でもできることないか聞いてみようかな?


 私はクックバードの肉とパンをもぐもぐと食べながら、そんなことを考えるのだった。


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