第5話 いざ街へ

 『死の森』を抜けて、そのまま近くにあった森も抜けて、私たちは近くの街の近くに下りてきていた。


 街の門が見えてきてのだが、その門の前には武器を片手に多くの冒険者や兵士たちの姿があった。


「何かあったんですかね?」


「フェンリルが森から下りてきたから、厳戒態勢を敷いているんだよ」


「ほぅ、人間のくせに生意気な。蹴散らしてくれる」


「頼むからやめてくれ。一旦、俺が話を付けてくるからこの場で待っていてくれ。それと、アン。人間の住む街で四足歩行は禁止な」


「だ、大丈夫ですよ」


 私はここに来るまでの道中、気が付いたら何回か四足歩行になっていた。


どうも、中々フェンリルとして生きていた時代の名残が抜けないらしい。


でも、意識して人目を気にしていれば問題はないはず。大丈夫、前世ではちゃんと二足歩行で三十年近く生きていたのだから、問題はない。


 エルドさんは私に少しジトっとした視線を向けた後。小走りで門の所にいる冒険者たちの所に向かって行った。


 初めは剣を構えていた冒険者たちだったが、エルドさんが何か話を付けてくれたのか、こちらに向けていた剣をそっと下ろした。


 それからエルドさんがこっちに大きく手を振ったのを確認して、私たちは門に向かって歩いていった。


「でかっ、え、ハイウルフなのか、あれって」


「いや、でかすぎるだろ」


「うわっ、すごい可愛い子が来たぞ」


 掛けられる言葉はどれも悪意のような物はなく、純粋に私とたちの姿を見て驚く言葉だった。


 そういえば、まだ顔をちゃんと見れてないけど、周囲の反応を見ると悪くはない容姿みたいだ。


「凄い可愛いじゃんっ、あの子」「うわー、お人形さんみたい」「綺麗な瞳してるねー」


 いや、もしかしたら、中々可愛い容姿をしているのかもしれない。


 少しだけ自分の容姿を見るのが楽しみになってきた。


「アン、シキ。とりあえず、一旦家に来てくれ。そこで、これからのことを話そう」


 先導してくれているエルドさんの後ろを付いていって、私達はそのままエルドさんの家へと向かって行ったのだった。




「好きにくつろいでいてくれ」


 エルドさんに連れられてやってきたエルドさんの家は、一階建ての平屋のお家だった。ベッドとソファーとダイニングテーブルというシンプルな家具と、狭くはないキッチンがある家だった。


 キッチンがあるのにやけに綺麗ということは……エルドさん、あんまり料理してないな。


 そんなことを考えながら、ダイニングテーブル近くにあった椅子に腰かけていると、すぐにお茶が運ばれてきた。


 少しだけ飲んでみると、慣れ親しんだような味ではないけど中々に悪くない味だった。海外のお茶みたいな感じで、少し特別感があって嫌いじゃない。


「この街で生活をする拠点はここを使ってくれていい。自分の家だと思ってくれて構わないから」


「……随分と親切だな」


「親切にもなるさ。子供を放置させるわけにはいかないだろ……子どもって言うのは、体調を崩しやすいんだからな」


 エルドさんは少し湿りけのあるような声でそんなことを言うと、立ったままお茶を一気に飲み干して、空になったコップを机の上に置いて立ち上がった。


「とりあえず、街の案内と行きたいところだが……さすがに、その格好のまま街を歩かせるわけにおいかないだろう」


「え? 私の服装変ですか?」


「変ではないが、この街では見ない服装をしている」


 言われてから私の服装を見てみると、私が着ていたのはぶかぶかの白のワンピースだった。


 ワンピースと言えば多少は聞こえはいいけど、サイズもあってないし汚れもほつれも目立つ服。


 ……囚人だと言われても疑わないかもしれない。


「シキ、これってどこで調達したの?」


「『死の森』で白骨化した遺体があったからな。それから頂戴した」


「ひっ」


 今までずっと着ていたはずのその服が、不自然なところで切り口があったのを見て確信した。


 これ、元は大人用の奴を無理やり丈だけ合わせた奴だ。


「想像以上だな。とりあえず、適当に服を買ってくるから街に行くのはその後だ。まぁ、時間的にも案内をするのは明日になるだろうな」


「え、買ってくれるんですか?」


「遺体が着ていた服を着たいって言うなら、無理にとは言わないけどな」


「で、できれば、お願いします」


「はいよ」


 エルドさんは私の頼み方があまりにも必死だったせいか、くすっと笑ってから家の扉に手をかけてこちらに振り向いた。


「とりあえず、俺は席を外すから、俺が返ってくるまでの間にアンの体を洗ってあげておいてくれ」


 エルドさんたらいのような物を指さしながらシキにそんな言葉を残すと、そのまま家を後にした。


 まだ会ったばかりの人を家に任せてしまうとは、不用心と言うべきか、人が良すぎるというべきか。


「エルドさん、凄い優しい人だね」


「そうだな。親切すぎて少し気にはなるが」


「気になる?」


「いや、なんでもない。ほら、今のうちに体を洗っておくぞ、アン」


 何かを言いかけたシキは私の服を口で咥えると、そのまま私をたらいの方に連れて行って体を洗うのを手伝ってくれた。


 何か気になるようなことあったかな?


 深く考えるよりも早く服を脱がされて、私はそのまま魔法を使って体を洗うことにしたのだった。

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