第4話 従魔契約

「それはそうと、アンはフェンリルと契約なんてできるのか?」


「え?」


 森を出て人間の住む街で暮らすことを決めた私達だったが、さっそく問題に直面していた。


 お父さんがフェンリルであるため、一緒に暮らすためには従魔契約をしなくてはならない。しなければならないのだが、私はそんな魔法を使ったことがなかった。


「お、お父さんっ、契約の仕方教えて」


「しょうがないな、教えてやろう。ほら、俺の魔力と波長を合わせろ」


「うん」


 今まで契約の魔法など使ったことがなかったので、私はお父さんの首元に抱きついて教えを乞うことにした。


 お父さんは小さく息を吐いた後、いつものように優しい声でそう言うと、魔力の質を変えた。


 私もその魔力の質に合わせるように魔力を変えて、お父さんの魔力と同じものを同調させていった。


「波長?」


 エルドさんの不思議そうな声が聞こえたのをそのままにして、私たちは互いの魔力の親和性を高めていった。


 そして、その状態を数秒維持した後、地面に緑色に光る魔法陣が形成された。


「よっし、あとはアンが俺に名前を与えれば契約は完了だ」


「名前?」


「そうだ。契約というのは名前で結ぶものだからな。何でもいい、俺に名前を付けてみろ」


「そんな、急に言われても」


 まさか、急に名づけをすることになるなんて思ってもいなかったので、突然過ぎる言葉を前に頭を悩ませてしまった。


 名前……名前……。


 白銀色のモフモフとした毛並みに、切れ長の目。神聖なオーラを漂わせているフェンリルに付ける名前。


 白銀色、白銀の世界、スキー、雪? 冬? いや、フユだと少し可愛すぎるかも。


「じゃあ、シキっていうのはどうかな? 全ての季節をも支配するって言う意味も含めて」


「まさか、娘にそこまで強い存在だと思われていたとはな。 いいな、シキという名前は気に入った」


 お父さんがそう言って口元を緩めると、私達の下にあった魔法陣が一層強い光を放った。


そして、その光が徐々に小さくなって消えていき、一瞬手の甲が地面にあった魔法陣と同じ光を放って消えていった。


「これは、契約完了ってことなのかな?」


「ああ。これから俺のことはシキと呼ぶようにな、アン」


「ふふっ、なんか慣れるまで変な感じがするね」


 私達がそんなことを言って少し和んでいると、何か視線を感じた気がしたので、私はエルドさんの方に視線を向けた。


「なんだ今の魔法は……」


 エルドさんはまるで何か信じられない物を見たかのように眉を潜めて、少し訝し気な目つきをこちらに向けていた。


 あれ? 契約をする必要があるって言うからしたんだけど。


「え、今のが従魔の契約じゃないの?」


「いや、従魔になったのなら別にいいんだが。……あんな従魔の契約の仕方は初めて見たぞ」


「そうなんですか?」


 当たり前みたいに魔法を使ったから分からなかったけど、エルドさんの目には私達の魔法は普通じゃなく映ったらしい。


 なんだろう、どこら辺がおかしかったのかな?


「当たり前だ。フェンリルと人間とでは魔法の使い方が違う」


「アンは人間じゃなかったのか?」


「俺が育てたのだから、フェンリルと同じ魔法の使い方になる。当然のことだろう」


 エルドさんの疑問を一瞬で解決したシキは、力でごり押したような説明なのに、どこか得意げに鼻を鳴らしていた。


 ということは、私は人間とは違ってフェンリルみたいな魔法の使い方をするってことなのか。


 あれ? それって結構チート級なのでは?


 今の自分の状態とか確認してみたいけど……確か、こういう時は小説とかだとステータスを確認したりするよね?


「ステータス」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いてみると、急に目の前に一辺30cmくらいの画面が現れた。


 異世界系のアニメとかでよく見たステータスが表示されている画面。


 そして、そこには次のように書かれていた。


【名前:アン】

【種族:ヒト】

【レベル:102】

【体力:1010】

【魔力:780】

【筋力:575】

【素早さ:920】

【器用さ:810】

【スキル:創作魔法 全知鑑定 魔力操作 魔力感知 言語理解 アイテムボックス】


 創作魔法? 全知鑑定?


 ……何か分からないけど、普通ではない気がする。


 もしかして、私には普通の人間にはできないようなこともできるのかなと思いながら、今は深くそのことを考えるのをやめることにした。


「いや、本来の人間の魔法は~」


「アンにはフェンリルとしての魔法の使い方が~」


 何かを熱弁している今の二人にそのことを聞くと、さらに議論が熱くなる気がしたので、私は表示されたステータスをそっと消したのだった。


 ……とりあえず、チート級の何かを手にしているのかもしれないということだけは覚えておこう。


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