【第四話】瀬古真奈美は問い詰める
瀬古は拝島に会いに、病室に潜り込んだ。家族と偽って病院に入るのは簡単だった。母親には見えないので、叔母とウソをついた。
「拝島君、瀬古よ」
「先生……」
「身体大丈夫なの?」
「はい」
「時間がないから用件を言うわね。動画のアップ、やめなさい。誰に頼まれてるの?」
「い、いや」
「拝島君、あなたあの動画を利用してるのわかってるの。あの動画でお父さんの虐待を伝えたいんでしょ。それはやり方が違う」
「先生、俺には他に方法が……」
拝島は瀬古に背中を向けながら返事をしている。瀬古には拝島の表情がわからない。
「どうして花井君もイジメてるの?もともと仲良かったって聞いてたけど」
「あれは、その」
「高城先生だよね。指示しているの」
「そ、そんなわけないだろ!」
拝島は振り返った。
高城先生は拝島が父親から虐待を受けていることに気づいていた。夫の谷垣先生が持っていた【花井の弁当を食べる動画】を見たのだ。ここに来る前、谷垣先生を問い詰めたら何が悪いのというぐらいのレベルで話してくれた。
元担当クラスのことを知っておくためにという言い訳までつけて、谷垣先生は動画が高城先生に共有したことを説明してくれた。
「谷垣先生から聞いたんだよ」
「父さんのこと、相談してたんだ。いつも辛かった。高城先生が救いだった。でも、先生産休に入ったら連絡つかなくなって」
「だから不思議なのよ。あなたが一之瀬君や花井君をイジメる理由がわからない」
「あれは……」
「もう、話しなさい」
「はい。あれは、一之瀬が自分からイジメてる風にふるまって欲しいって。そしたら、お金を……くれるっていうから。俺、小学校の給食なくなってから、ご飯が……。中二になってから母ちゃん全く作ってくれなくて…」
「そんなことが」
「それで、一之瀬って、注目されたがりで高城先生に構ってもらいたがってたんだ。それでイジメられたら、高城先生に相談できるからって」
瀬古は何とも苦々しい表情になった。
「それなら、花井君をイジメるのは?」
「あれは井草と手塚が、花井がレギュラーになったもんだから嫉んで。一之瀬イジメてることでお金をもらってるのバレて。誰にも言われたくなかったらメインでイジメやれって言われて」
「とにかく、わかったわ。拝島君、あなたのしたことは辛いね。悲しい。」
「高城先生にやっと連絡がついて、それで、俺、相談したら、あの動画のこと言われて。もう、これを利用してお父さんの虐待を広めたらって言われて」
泣きじゃくる拝島は被害者だったが、やっぱりどこかで弱い加害者でもあった。弱みにつけこまれてばかりいる。その時その時の判断がまだうまくできない年頃なのだ。
瀬古は、拝島の肩をグーでトントンと叩き
「あとは、先生に任せなさい」
とだけ言って病室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます