第2話 噂の怪奇現象

ケラの鳴く声もすっかり聞こえなくなる変わりに秋声が聞こえてくる。俺はしみじみとしながら今日も研究室で手を動かす。ちなみに神楽は今日、休みだそうだ。家の手伝いをやらされているらしい。


 俺が研究している磁場説は仮説から結論までまとまった。次にやるのは電磁説だ。人間は微弱な生体電気が流れて、歩いている際に帯電と放電を繰り返している。その電圧の変化を擬似的に模倣し、いわゆる気配を感じ取ることが可能なのか。それを検証していく。

 心霊スポットでの電磁波と磁場の関係も調べたいな。


「バン!」


 あれこれ考えているうちに突然、研究室の扉が慌ただしく開いた。もう振り向くまでもない。いつもの事だ。何か面白い説でも見つけた先輩が興奮気味に入ってくる。


「大変ですよぉ!! はぁ、はぁ、……聞きましたか今日の噂!」


 先輩は子犬のように息を切らしていた。今日の噂ってなんだよ。噂察知能力でも持っているのかよ。


「また噂ですか、、噂は人から人へ伝染して例え事実だとしてもそれが誇張され結局は得体の知れない物になっていくんですよ先輩」


 昨日も北海道に行くとか言い出すし何とか暴走を抑えようとする。まあ噂を聞いた時点でもう止められないよね。好奇心旺盛な子犬が飼い主に投げられたおもちゃを追いかけるように。


「子犬ってなんですか! サイ君。私は子犬じゃないですよ!」


 あ、ヤベェ。声に出てたらしい。まるで餌をくれと言わんばかりに鳴く子いn……。先輩は少し頬を紅潮させ、涙目になりながら俺に訂正を求めてくる。子犬可愛のに……。じゃなくて、まずい。どうにかしないと。俺は必死に頭を回転させる。


「っとぉー、心霊スポットに子犬とか動物を連れていけば人間には感じない何かを察知するんじゃないかと思いまして」


「どうして子犬なんですか?」


 そうだよな。そこだよな。んー、ここは適当に誤魔化すしかないな。


「子犬の方がまだ未発達の段階にあるので、直観的なものが優れているからですよ」


「・・・」


「確かにそれも一理あるわね。動物は人間より嗅覚や聴覚など発達しているし赤外線をピット器官で感じ取れるヘビもいるわね」


 ふぅー。危ない危ない。オカルトにもっていけば間違いないな。


「そんなことより大変ですよ!最近ここ、京都市北区に怪奇現象が起きるって噂が数多くあるのです!なんでも、夜中に誰も居ないのに不気味な光が泳いでいたり、鈴の音みたいなのが聞こえてきたり、女の子の声が聞こえたりしているらしいですよ!」


 先輩は目をサファイアのようにキラキラと光らせ語る。近くにそういう噂があるからかいつもより胸を踊らせている。 鈴の音……。俺が前に聴こえた幻聴か。可哀想にな。その人も寝不足だったのだろう。現代人は仕事やら趣味やらで忙しいからな。どうかよく眠れますよーに。


「で、その噂を今すぐにでも検証するんですよね。今日は神楽が休みですしついて行きますよ」


「話が早いわね。じゃあ今日の夜、丑三つ時に深泥池に行くわよ。私の家に集合ね」


「わかりました。くれぐれも前みたいにお菓子を持ってくるのはやめてくださいね。遠足じゃないんですから」


 先輩は前回お菓子を持ってきたのだ。流石に驚いたよ。心霊スポットを一体どんな場所だと思ってるんだよ、、。ちなみに丑三つ時とは幽霊などが出現しやすい午前2時〜4時の時間帯のことだ。考えた人もすごいねぇ。ただ暗いだけなのに。


「あれは小腹が空いた時用だもん!」


 いや、トンネルで食べてたでしょうが。美味しそうにポッキーを。


「はいこれ。電磁波計ね。忘れずに持ってきてね。私はフラックスメーターで磁束量を計るから。今回はついでに電界と磁界の相互性も検証できるからちょうどいいね」


『ついで』っていってるよ。もうそれ検証関係なく行きたいだけでしょ。


「じゃあまた今日の夜……じゃないか。明日の午前に会いましょう」



 



 時刻は午前2時。先輩の家に着いたがインターホンをこんな時間に鳴らす訳には行かないのでRINEで連絡をした。



『着きましたよ先輩』


『よしわかった。今行くぞ─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ』



 文面から楽しみなのが伝わってくる。まあ幽霊はいないわけだし、楽しんでもいいのかな。


ガチャッーー


 ドアから出てきた先輩の姿に俺は目を見開いた。


「……なんですかその格好は」


「なにって?普通に長袖長ズボンよ」


 先輩はピンクのパーカーに灰色のワイドズボン、ランニングシューズに、リュックサックを背負っていた。


「これからどこに行くんでしたっけ?」


「何言ってるのよ。深泥池でしょ。寝ぼけちゃったの?」


「で、ですよね。すいません。遠足の山登りじゃないですもんね」



「……っ! 違うわよ! 私ってそんなにお子様に見えるわけ!? そもそも、深泥池は草むらだったり危険な虫だっているかもしれないからこの格好なのよ!」


 先輩は顔を赤面させ必死に弁解している。楽しみで服装などは機能性の方が重要だったのだろう。今になって自分の格好に気づいたみたいだが。まあ確かにその危険はあったな。俺は半袖長ズボンできてしまった。


「確かに今回は先輩の方が合理的でしたね」


「今回は?」


「今回もです」


「半袖でくるなんて蚊に刺されに行くものじゃない。これ。虫除けスプレーしときなさいね。」


「あ、ありがとうございます」


 ・・・・・・


 そうして、先輩は嬉々として深泥池に向かっ……ん?なんだそれ。その手に持ってるやつは。


「先輩それは……?」


「刺股よ。あ、またなんでって聞くつもりだったでしょ。今は午前2時よ。変な人とか来たら対処できないじゃない。神楽君がいれば大丈夫だったけどね。」


 うっ、それもそうだ。神楽はあんな弱チャラそうに見えて体術はすごいんだった。前のスポーツテストで様々な種目で1位とってたしな、、。俺は別に強くもないし……。返す言葉もない。幽霊のことしか見えなくなっていたのか。


 色々と先輩の言うことが正しく俺は肩を落とし、深泥池に向かうのであった。

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