第3話 深泥池
ー午前2:30分ー 深泥沼到着。周辺に明かりはないため真っ暗だ。
____ガサッ!
「ひゃっ!」
先輩は突然声を上げ、俺の方に抱きついてきた。
「ちょっ……!先輩、大丈夫ですか?」
「何か音がして、、。虫かと思って」
そこで俺は軽く抱き合うような体勢になっていたことに気づく。
「あ、、あの先輩、、」
「ん……?……あっ!」
先輩はすぐに手を離し咄嗟に身体を後ろに離す。
「・・・・」
「・・・・」
お互いに少し気まずく、目を逸らし無言になる。
「急に抱きついてきて…………へんたい//」
ムスッとした顔で頬を赤面させそう言う。
あれぇ……そんなキャラだっけ先輩? 急に抱きついて来たのは先輩なんだけどなぁ。なんか事実が改変されてるな。それに今日はなんだか先輩らしくない。いつもは気にせずどんどん進んでいくのに。
「と、とにかく!ここら辺で磁束量と電磁波の測定をしましょう、!」
今日は神楽がいないから妙な空気感になっているのか。神楽はムードメーカー的な存在だったのかと改めて思う。
流石に池に入ることはできないため深泥沼の周辺を隈なく測定していく。深泥沼はその名の通り何層にも泥の層が重なっているため見かけによらずかなり深い。
生き物が生息しているはずだが気配を感じない。どんよりとしていて不気味だ。虫が奏でる音も聞こえずこの世界に先輩と二人しか存在しない気さえした。
「特に変化はありません」
「そうね。ここは磁場の影響が少ないのかもしれなわね。鉱山の近くって訳でもないし」
「はぁ〜。早く出てきてくれないかな」
「幽霊なんて存在しないので出ませんね」
「またそんなロマンのないこと言って。本当に出てきたらどうするわけ?」
「挨拶でもしときますかねー」
測定が半分程経過した時、徐々に不吉な空気感がどこからとなく流れてきた。
「なんかちょっと不穏な感じだね……さっきと違う気がする……」
「気のせいですよ。単純作業ほど夢中になりますからね。それに今は真夜中です。眠気で脳も半覚醒状態ですよ」
しかし、その予感は当たってしまった。なんだか聞き覚えのある音が俺の脳細胞を叩き起した。
チリン…………
「え…… 今何か聞こえなかった? 鈴みたいな音……」
「ハハ……耳鳴りとかじゃないですかね。第一先輩も俺も鈴なんて持ってきてないですよ」
「だ、だよね。気のせいよね」
「先輩……もしかして怖いんですか? いつもは遠足気分なのに」
「ち、違うわよ! 場所の問題よ!虫も多いし嫌なの。毒蛇とかマムシとかダニとかカエルとか出てきたらどうするわけ!?」
そっちの方が怖いのか?先輩にとっては。まあとにかく作業終わらせてとっとと帰r
チリン……チリン……
「明らかにおかしいわ。こんな時間に誰もいないのに。鈴の音がするなんて。……鈴……これって噂の幽霊の仕業なんじゃないかしら。絶対そうよ!ついに……ついに来たのね!!私の元へ!」
あ、いつもの先輩じゃん。てか気のせい……だよな?
チリン……チリン……チリン!チリン!
「・・・・」
チリンー!チリンー!チリン!チリン!
じゃないわ!やばいわ!走ってくるわ!
「やばいですコレ。逃げましょう先輩!」
俺は慌てて声をかけたが先輩は微動だにしない。
「先輩? 座って何やってるんですか!……もしかして、変なことしようとしてませんよね!?」
先輩のことだ。幽霊と友達になるだとか会話するだの言うに違いない。
「へへ// こ……腰……ヌけちゃった//」
全っっ然違った。むしろ予想の斜め下だった。
てか、腰抜けたなら怯えた顔しない?
なんでそんな色っぽいんだよ。やっぱおかしいぞこの人。
「何やってるんですか!? 幽霊好きなんじゃないんですか?心霊スポットは遠足気分なんでしょ!?」
「私は!ロマンよ!ロマンを求めてたわけ!摩訶不思議な事だったり、物理法則を無視するような現象が面白いと思ったのよ! でもこれ、明らかに襲って来てるじゃない!」
「サイ君こそ幽霊出たんですから挨拶してくださいよ!」
チリン!ちりーん!ガサッ!!
やばい近いぞ!とにかく来た道戻るしかない!
「先輩!背中乗ってください!俺が乗せますから落ちないようにしっかり捕まっててください!」
「サイ君…………なかなかに恥ずかしい台詞ね//」
なんで照れてんの!? 今そういう場合じゃないから!緊急事態なんですよ!こっちも恥ずかしいわ!
「よし。乗ったわよ!あとは頼んだわ!」
まるで果樹園にいるような甘い香りと先輩のふくよかな胸が……
チリン!チリン!チリン!
「ちょっと!ぼうっとしないの!変なこと考えてたでしょ!?」
そ、そゆとこは鋭いなぁ!
「ひぇぇー! なんで追いかけてくるんだよ!先輩刺股で何とかしてください!」
「何とかって何すればいいのよ。姿も見えない相手にどうするの?」
急に冷静になりやがった。こっちは背負いながらよく分からん奴に追いかけられてんだぞ!
チリン!チリン!チリンチリン!
「やばいわ! もっと急いで! サイ君ならやれば出来るわ!男の子だし自信もって!頑張って!」
そう言って先輩は首に回していた手を力ませた。
「ンング!……ぐ……くる……しぃ……」
「あっ!ごめん!ちょっと楽しくなっちゃって」
さっきまで腰抜かしてた人が何言ってんだ。
「とにかく暴れないで!先輩はちゃんとライトで道を照らしてください!」
俺たちは必死に来た道を駆け抜けた。
*
「ハァ……ハァ……はあ゙あ゙あ゙ー!」
「ご苦労様。ここまで来れば多分もう大丈夫よ」
振り返ると草むらを抜け先輩の家まで来ていた。
ほんとに危険を感じると案外何でも出来るもんだな。
「ハァ……流石に重かった……」
「・・・・」
「あ、いや!違いますよ!? 流石に人を背負って走るのはキツか ったなぁー。って意味ですからね!?」
「へ、へぇー💢 」
やってしまったー。次から女性の前で重量の話は禁句にしよう。
今日は疲れた。なんだかよく分からんものに追っかけられて。気のせいと言いたいが鈴の音が聞こえるだけでなく何かの気配がしたし。
「それにしても本当に出たわね、、、幽霊」
「もしかしたら鈴の着いた首輪をした犬が追いかけてきたとか」
「無理があるわね」
「ですね……」
明日は休みだからその時に心霊現象についてまた調べてみるか。何か証明出来るはずだ。今日は冷静じゃないからな。
「じゃあまた明後日サークルで会いましょう先輩」
「そうね。今日は色々ありがとね」
*
ガチャ――
「ただいまー。今日は疲れたな。きっと明日は夢だったと思うだろう。早く寝よう」
俺はこの時肝心な事に気づかなかった。朝に倒してしまった傘が既に玄関棚にしまってあったことに。
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