心霊現象

いろは

第1話 幽霊なんているわけない

チリン……


 夏休みも終わった頃、俺は疲れていた。心霊現象を研究する心霊サークルの研究が最近忙しかったからだ。


  チリン……チリン…………


 世の中幽霊や怪奇現象などという非科学的な事象に人々は夢中になっている。テレビや動画で『心霊スポットに行ってみた! 』だの『死後霊は本当に存在した 』などとうつつを抜かし、エンタメと化している。


  チリン……チリン……


 心霊現象は完全にでは無いが科学的にある程度証明出来る。例えば心霊スポットとなっているトンネルの壁に人の顔が浮かび上がった。という証言がある。この場合トンネルの壁面にある汚れやシミを見て幽霊だと錯覚したと考えられる。いわゆるパレイドリアというやつだ。自分の思い込みでただのシミや汚れを幽霊などと勘違いし騒いでいるのだ。まったく、笑える話だ。


  チリン……チリン……チリン…………


「・・・・」

 さっきから鈴の音みたいなのがうるさいがこれも睡眠不足が祟り、脳にダメージがあるからだろう。


 幽霊が怖くないのかって? んなぁわけないね。自身の勘違いを都合よく幽霊のせいにする人間の方がよっぽど怖いね。


 だって…………


 幽霊なんているわけないんだから。


  

  

 


朝日がカーテンの隙間から覗いている。東向きで寝ているため目覚めがいい。自然の目覚まし時計だ。朝食は野菜ジュースと栄養ドリンクにしている。栄養が取れれば十分だ。その後大学にいく支度を済ます。


「やべぇ!もうこんな時間じゃん。急げ急げ!」

 

 さっきまで雫のように滴っていた秒針が滝のように速い。 物理学の講義の教授、遅刻するとネチネチしつこいんだよ。


「やばいー! 急げ! 」


 ガンッーー


慌てて靴を履こうとしたら玄関に立て掛けてあった傘を倒してしまった。ここにあると邪魔だから後で玄関棚にでもしまうか。

 


  *





 大学の講義も終わりサークルに向かう途中にチャラそうな声が耳に入った。


「おーい! サークル早くいこーぜ。あそこは人数少ないし変な奴しかいないから俺のオタ活が捗るんだよ〜」


 いかにも軽そうな発言をするこいつは神楽 俊介かぐら しゅんすけ。俺と同じ大学一年生だ。なんでも、神楽家は代々続く霊媒師の家系だそうだ。なんだか胡散臭いがな。茶髪で片耳にピアスを開け、いつも派手な格好をしている。


「夏休みの心霊研究はちゃんとやったのか?校内発表もあるんだぞ。神楽はいつもアニメ見たり、漫画読んだりしてロクに研究してないじゃないか」

「してるしぃ〜。今期の夏アニメだって全作品網羅したし、星の数ほどいる可愛い子から狐火きつねびを選び抜いたんだぞ!」


 話聞いてたのかこいつ。ちなみに神楽が言う狐火とは今年大ヒットしたアニメ『俺の擬人化スキルで魔物を美少女にしてウハウハーレム異世界生活を堪能することにした』 に登場する狐火きつねびという狐を擬人化したキャラクターだ。俺も見たが面白かった。題名からは想像出来ないほどにな。

 

「心霊に興味があるから入ったんじゃないのか? 」

「心霊現象よりもアニメの方が最高だよ。だってアニメでは幽霊も彗星の如く輝く美少女なんだぞ!現実は黒い霧みたいだったり明らかにヤバそうなやつばかりだからな」


 神楽は霊媒師の家系であるから普通の人より霊感は強い。だから俺には見えない物が見えているらしい。 てか、いいのかよ。霊媒師一族の者がそんなこと言って。


「そういうサイもなんで心霊サークルなんて入ったんだ?全っ然信じてないくせに」

「俺は心霊現象を解明し、ありもしない存在に恐れたり騒いでいる人に思い込みで湧き上がっていたと恥をかかせてやる」


「残念ながら幽霊はいるよ。見た事あるし」 


「それは見間違いだろ。『黒い霧のようなもの』なんて曖昧な表現なんだから」


 「はぁ〜。まったく。そういうことにしといてやるよ」


  ため息混じりにそう神楽は口にする。じゃあ出てきてくれよ。幽霊。そうすればこんなちまちま検証だのする必要はないんだから。


 そんなことを話してるうちにサークルの研究室に着いた。扉を開けたその先には――――


「遅かったじゃないですか! サイ君! 早く夏休みに調べていた幽霊が見えるのは磁場説だという仮説を私に説明してください!さぁ、、さぁ!」


 明らかに情緒がおかしいこの女性は心霊サークルのもう1人のメンバーの瑞原 愛莉みずはら あいり。1つ上の先輩だ。彼女は心霊現象や怪奇現象、超常現象などが大好きなオカルトオタクだ。このサークルは何かしらのオタクじゃなきゃ入れないのかってくらいオタク多いな。あ、でも悲しいかなメンバーは俺含め3人だ。


 俺は瑞原に夏休みに研究した磁場説を説明した。正直まだ最後まで証明しきれていなかったが説明しないと身の危険を感じるほどの勢いで迫ってきたから渋々にだ。


「なるほど……幽霊が目撃された現場では磁鉄鉱を含む花崗岩があり、磁力の乱れが脳に影響を及ぼし、神経回路を流れる微弱の電流、つまりイオンの流れに外乱を与えて思考の乱れから幻覚を引き起こし……」


 なんかブツブツ言ってるよまた。こうなったら止まらないんだよこの人は。俺も研究の続きをやるか。


「素晴らしいですよ!サイ君!仮説から実験、考察までどれも着眼点がいいですよ!」


 うぉ、びっくりした、! 今回はブツブツタイムが短かったな。


「相変わらずサイ君は幽霊を否定する検証ばっかね」


 落ち着きを取り戻したら可愛らしい女性なのにな……


「それが目的でこのサークルに入りましたからね」


 「まあいいわ。それと来週辺りに心霊スポットに調査しに行くわよ。実験機材やらなんやらあるから手伝ってよね」


「また行く気ですか?今まで何度も有名な心霊スポットとか行っても何も起こらなかったじゃないですか」


 「今回は絶対出るわ。日本でも5本指に入る超強力なスポットよ」


 「ちなみに場所はどこですか?」


「北海道の北見市よ。鎖塚という有名な場所よ」

 正気かこの人?ここ京都ですよ?泊まり確定じゃないですか。


 「やめた方がいいッスよ先輩」


 ここでパソコンと睨めっこしていた神楽が口を挟む。珍しくちゃんと研究……いや、なわけないな。


「どうして?」


 「言いずらかったんスけど前に落合橋と赤橋トンネルに行った時、確かに霊は居ました。でも先輩が先頭して進んで行くと何故か霊達が一斉に居なくなったんスよ」


 そんなことあるか?幽霊が逃げていくなんておかしいだろ。絶対行きたくないから嘘ついてるだろこいつ。

 

「嘘言わないで。あの時はタイミグも悪かったのよ。まだ夜中じゃなかったし。」


「だって……先輩のあの顔見たら幽霊じゃなくても逃げるッスよ」


 そんなことあったわ。うん。あの顔はこれから心霊スポットに行く顔じゃないもん。不審者の形相だよ。


「何言ってるのよ!? 私は普通でしょ? 普通に心霊スポットを調査してたじゃない!」


 まじか。この人は自覚がないらしい。卑らしい物でも見るかのような目と謎のワキワキとした手の動き。挙げ句の果てに『出てきてちょうだい〜幽霊ちゃん、、私とお話しましょうよ。聞こえてますかー?』とか小声で言ってたもん。ちゃんと聞こえてますよこちらに。


「とにかく! 行きますので準備しておいてくださいね。今の時代交通も便利になって行けない距離じゃないんですから」


 幽霊のことになると限度が無くなるなぁ。普段の真面目な性格は一体どこにいったのやら。何とか行かなくなるような対策を考えねば。京都にも結構心霊スポットはあるんだけどねぇ。


 まあ、どこに行こうがどんなことがあろうが結局は人々の一徹短慮が原因だ。この世の法則は原子レベルで決まっている。幽霊なんて世の中が作り出した一種の娯楽に過ぎない。そんな不確定な存在を見ることが出来るなんて以ての外だ。


 だから俺は証明してやる、、。


幽霊なんているわけない。

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