テンテンの一生

@padi801355

テンテンの一生

 テンテン。今思い出しても胸が苦しい僕が飼っていた猫のはかなくも短い一生のお話です。

 ある日トイレに行くと小さく猫の鳴き声が聞こえました。どうやら外で猫が鳴いているようです。僕の住む住宅街ではよくあることなので、気にも留めませんでした。そのうち外出から帰ってきたうちに住む下宿人が「オヤジ、うちの駐車場に死にそうな子猫がいる」というので駐車場に出てみると、炎天下10センチくらい小さな小さな子猫がうずくまっているのでした。僕はどんぶりに水を入れてその子猫に与えました。猫はぐびぐびと勢いよく水を飲むと、おっしっこをして全部出してしまいました。まだうずくまっています。僕はとにかく家の中に入れて台所にあった段ボール箱にバスタオルを引きその上に寝かせました。小学校四年生の時に金魚を飼って以来全く生き物を飼育したことのない僕は近所の動物病院にその子猫を入れた段ボール箱を抱えて駆け込み事情を話してどうすればいいか尋ねました。とにかく涼しい部屋の中でミルクを与えてくださいと言われたので、そこで猫用ミルクを買いました。まだ自力でミルクを飲めないかもしれないからと、スポイトと注射器もかいまし。家に急いで帰り、ミルクをぬるま湯で作ってその子猫にスポイトで少しずつ与えました。暫くしたらミルクの栄養分が効いたのか元気になっていきました。その日から携帯のネットで猫に関することを必死で勉強して、子猫を育てました。はじめはスポイト、それから注射器、さらに哺乳瓶、ミルク皿と段階を踏んでミルクを与え、まだ自分でおしっこできないので、ティッシュで股間をちょんちょんと刺激して出すようにしました。

 まだ名前がなかったので知り合いのキャバ嬢に名前なんて付ければいいかなと聞くと、彼女が私の親友の愛がテレサテンに似てるからわたしテレサって呼んでるでしょ、だからテンがいいよ、テンだけじゃつまらないからテンテンにしようということでテンテンと名付けました。

 テンテンはキジトラ科の猫でその頭から体にかけてトラ模様がしっかりしていてとても可愛いかったです。眼はキャットブルー、子猫の眼は青色で綺麗でした。特に記憶に残っているのは、僕が横になっているとTシャツ裾から潜り込んできて首の所から顔だけ出してニャーと小声で鳴く姿は目に入れても痛くないくらい愛くるしいものでした。成猫用のカリカリの餌が食べられるころになると随分たくましく成長したなと感じました。でもテンテンはさみしがり屋で僕が寝ていると甘えて布団の中に入ってきて、一緒に寝ていると安心しているみたいでした。猫じゃらしが好きなテンテンは猫じゃらしでかまってあげるとフラフラになるまで遊んでいました。ミルクが大好きでいつもお美味しそうに飲んでいました。テンテンには昼下がりのお日様がいっぱい当たる出窓でお昼寝するのが日課でした。餌を食べて、水を飲んで、トイレをしたあとのお昼寝はテンテンの至福の時間でした。

 そんなこんなして二年がちょうど過ぎたある日のこと、テンテンを今日見かけないなと思ったら、テンテンが居間で冷たくなっていました。もう体は硬直していまた。あまりに突然のことだったのですが、飼い猫によくある突然死でした。僕は暫く気が動転してなにをしていいかわからなかったのですが、気をと戻した僕はその亡骸をバスタオルに包んでテンテンの好きだったいつもの出窓の所に寝かせました。テンテンが死んだ姿を見たくはなかった僕はネットで調べて、近くの動物用寺院に連絡して明日にでも火葬してもらうことにしました。その晩寝る時に何かおかしいなと思ったら、そうですテンテンがいないのです。何で死んでしまったの、まだ二年ちょっとしか生きてないのに、涙が止まりませんでした。翌日、タオルに包んだテンテンの亡骸をバイクに乗せて、動物用のお寺に連れて行きました。斎場の人に火葬埋葬料のほかに心づけで一万円を手渡して、お世話になります、無事成仏できるよう、くれぐれも宜しくお願いしますとお願いして傷心のまま家に帰りました。

 それから一週間後、夜、仕事に急いでいた僕は雨で視界が悪かったこともあり、バイクで大事故にあいます。しかし奇跡的に片足を骨折しただけで、済みました。後日病院に来た警察官がよく死亡事故にならなかったものだといわれました。バイクは原形を留めてないほどバラバラだったそうです。

 退院して事故のことをテンテンと命名してくれたキャバ嬢に話すと、きっとテンテンが守ってくれたんだよ、もしかしたらテンテンの命の恩人のあなたを事故から救うために身代わりになったのかもしれないよ、いや、絶対にそうだよと言われました。知り合いの占い師にもこのことを話すと、ペットがご主人様の身代わりになることは確かにあると言われました。仏教に精通している女友達に話しても見たのですが、可愛がっていたペットが亡くなったのはつらいことだけど、あなたを助けるために一足先に天国に行ったと思ってこれからの人生をできるだけ悔いのないように、猫の分まで長生きして下さいとのことでした。

 もしテンテンが僕の身代わりになって死んだのなら、本当に申し訳ない気持ちで一杯です。テンテン本当にごめんね。ありがとう、本当にありがとう。テンテンが死んでから後、猫を貰ってくれないかという話がたまにくるのですが、丁寧にお断りしています。僕には先に亡くなって、僕を可愛がってくれた、おじいちゃん、お父さん、お母さん、お姉ちゃんがいます。写真を前にしてお花とお水を供えているのですけれど、お線香はテンテンの分も含めて五本立てています。とにかく大事故から助かった命、家族ためとテンテン分もいい人生で長生きしたいと思います。合掌。

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