第19話 最強のパーティー
偽名で冒険者登録をしたカルリアナはディートシウスのパーティーに入り、すぐにゲーアハルトとクラウスを含めた四人で探索に向かった。
遺跡【聖地】は
普段軍服を着ているときのように、頭頂でホワイトブロンドの髪を束ねたディートシウスが、ニコッとしたあとで人差し指を立てた。
「はい、注目!」
カルリアナだけでなく、ゲーアハルトとクラウスもディートシウスの方を見た。ディートシウスはボディバッグから三本の腕輪を取り出し、カルリアナたちに渡す。それから、彼が左腕につけている同じ腕輪を掲げてみせた。
「これは探索用の魔道具でね。同期すれば、それぞれの生体反応を確認できるありがたーい代物さ。今からその作業をやってみよう。ささ、早く早く」
「ディートはリーダーというよりは引率の先生みたいだね」
ゲーアハルトが穏やかに笑うと、クラウスが無表情に同意した。
「まったくです。わたしは殿下のような教師に教わりたくはありませんが」
もしかして、冒険者としての仕事が久しぶりで、ディートシウスもついついはしゃいでしまうのかもしれない。
ディートシウスの説明どおり、カルリアナたち三人は腕輪をはめ、魔力を流し込んで同期した。すると、それぞれの腕輪についている十個の小さな石のうち、三個が緑色に光り始める。
「石が緑色に光れば、そのメンバーは生きているってこと。で、瀕死が赤。死んだ場合は光自体が消える。もし、離れ離れになったときには役に立つってわけさ」
「お守りとしてはなかなかだね。特にこういう、行方不明者が多発している場所では」
ゲーアハルトの落ち着いた声に、カルリアナはかえって身が引き締まる思いがした。
(足手まといにだけはならないようにしませんと)
開きっぱなしになっている、
全員で中に入る。静まり返っているかと思いきや、広々とした空間には生き物が立てる独特の音が響いていた。
ディートシウスが近所を散歩しているかのようなのんきな声で言う。
「カルリアナ、一応バフをかけておいてよ。いったん戦闘に入っちゃうと、タイミングを見計らうのが難しくなるからさ」
「はい」
学生時代のダンジョン演習は、古代の遺跡に触れるためのもので、魔物との実戦などなかった。いざ戦闘になったときにカルリアナがパニックになる可能性もある。対人対魔、双方の実戦経験豊富なディートシウスならではの指示だ。
カルリアナは自分も含めた全員に、物理防御力強化・魔法防御力強化・攻撃力強化・魔法攻撃力強化・速度強化の補助魔法をかけた。
太陽学院では魔法の素質のある者は、実技も含めた魔法学が必修科目だったのだ。学院で学んだ、物質強化以外の補助魔法が役に立つときが来るとは思わなかった。
「ありがと。一気にこれだけバフをかけられることはあんまりないから、気分がいいね――っと」
ディートシウスが振り返る。次の瞬間、いつの間にか腰に帯びた剣を抜いていた彼の前で、ガーゴイルが真っ二つになっていた。
「んー、速度強化がバッチリ効いているね。敵さんは待ってくれないようだから、このまま進もう」
進むごとに魔物が出るわ出るわ。ディートシウスたちは少しも力んだ様子がなく、手にした武器でそれらを
カルリアナも攻撃魔法で援護してみるのだが、当たっても大したダメージにはなっていないようだった。
(さすが上級に分類される魔物たちです……)
とはいえ、ディートシウスら三人がカルリアナをそれとなく守るように戦ってくれているので、次々と倒されていく魔物の凄惨な姿に口の中で「うわっ」と小さく悲鳴を上げながらも、カルリアナは安心して進むことができた。
「おー、壮観だねえ」
二階に進むと、魔物の大群に取り囲まれた。口笛を吹くディートシウスを横目に、ゲーアハルトが「じゃ、ここはわたしが」と手にした槍の石突きで床を叩く。
石突きを中心に巨大な魔法陣が出現する。ゲーアハルトが床から離した槍を担ぐと、魔法陣の真ん中から、翼と紅の瞳を持つ巨大な黒い蛇が現れた。
ゲーアハルトが地上のどの言語とも違う言葉で指示を出すと、黒蛇は炎を吐き、魔物たちを焼き払う。
(これがシュノッル大佐の召喚士としての力……)
召喚士は
「さ、進もう」
黒蛇を幽幻界に帰したゲーアハルトが涼しい顔で声をかける。彼の力に恐れをなしたのか、しばらくは魔物も出てこない。
と、建物の幅が急に狭まり、行く手に妙な矢印模様の刻まれた床が現れた。
「怪しいねえ」
ディートシウスの発言にカルリアナも同意する。
「怪しいですね。ですが、この先はこの床に足を着けないと進めないようです。見たところ、左右どちらの床を踏むかで行き先が違うようですが……」
「二手に分かれたほうがよさそうですね」
クラウスの提案にディートシウスが手を挙げる。
「はいはーい。俺はカルリアナと一緒がいいでーす!」
(俺……)
「ディート、仕事に私情を挟みすぎだよ。まあ、アルテンブルク伯がそれで構わないならいいが」
ゲーアハルトがちらりとカルリアナの方を見る。カルリアナは思わず固まった。ディートシウスは期待に満ちた目をしている。
(み、みなさんの前で、「殿下と一緒に行動したい」と主張するなんて……)
カルリアナが両手の指を組みながらもじもじしていると、ディートシウスが横にぴったりくっついてきた。
「カルリアナは魔法使い系だから、剣も魔法も使えて一番強い俺が一緒にいるべきだと思うんだよねー」
「はあ……もういいよ。伯爵もまんざらでもなさそうだし。クラウスもその組分けで構わないよね?」
「わたしはシュノッル大佐とご一緒のほうが気が楽なので」
「じゃ、決まりだ。いっせーのせーで、左右に分かれよう」
そう提案したディートシウスが掛け声をかける。カルリアナは右の床に足を踏み出した彼に続き、ゲーアハルトとクラウスは左に踏み出す。
直後、床が高速で動き出し、カルリアナは思わず、前に立つディートシウスにしがみついた。ディートシウスの歓声が耳に届く。
「最高ー!」
床が止まった。ディートシウスの背中にしがみついていることに気づいたカルリアナは、慌てて彼から離れる。
ディートシウスが唇をとがらせた。
「もっとしがみついていてくれてもよかったのにー」
「わたしの心臓がもちません!」
「あ、ちゃんと意識してくれているんだ。安心した」
ディートシウスはうれしそうに笑うと言った。
「この床は一方通行みたいだ。動く床が途切れた以上、この先は歩きで進むしかないね。ね、次に魔物が出るまで、手を
状況が状況なだけに、カルリアナは建設的な意見を述べた。
「それよりも、シュノッル大佐とナウマン大尉の無事を確認しませんと……」
「大丈夫だって。ほら、腕輪を見て。二人とも生きているし、大怪我もしていない。あいつらなら、自力でわたしたちを見つけ出すよ」
確かに、腕輪の石は依然としてすべてが緑色に光っている。
少し安心したカルリアナはうつむきながら手を差し出す。
「……次に魔物が出るまでですよ」
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