第2話 もうすぐなの

 紅葉たちと別れた三日後、さくらの家へ再び四人で集まることになりました。

「こんにちは!」

 紅葉が元気よく部屋へ入って来ました。

「こんにちはー。今日はとても機嫌よさそうだね。何か良いことあったの?」

「そうなの!頑張って公園で女の子たちに話しかけたら、一緒に遊んでくれたの!」

 紅葉は飛び跳ねながら嬉しさを爆発させたのです。

「良かったね!これで新学期も大丈夫だね!」

 さくらは同じように嬉しさを体から溢れんばかりに漏らし、ハイタッチを交わしました。

 紅葉の嬉しさは落ち着きを見せず、ずっと辺りを跳んでいました。

「落ち着きのない子ね」

 お姫様がぽつりと零しました。

「感情が大きな子なのです」

 ユードリッヒが話を始めます。

「私はそれが嬉しいのですが、人によっては嫌だという人も一定数おります。好き嫌いがすぐ顔に出るのが嫌だそうで」

 ユードリッヒは悲しそうな顔をお姫様へ向けました。

「そうなのですか」

 お姫様はさくらのことで感情の起伏が激しくなる傾向があると自覚しておりますから、あまり紅葉のことは言えませんでした。

「おひとつお聞きいたしますが、さくら様とは、どのようなお方なのでしょうか」

 ユードリッヒがお姫様へ問うと、彼女は瞳を輝かせてさくらの好きなところを話し始めました。

「さくらは昔から手先が器用で、優しくて、子供が大好きで、料理、服飾の制作が大得意な人です。私にかかりきりでお友達が少ないのが少し心配ですが、それでも良好な人間関係は築けています。優しくて夢へ一直線な素敵な方です」

 紅葉が落ちついた頃、さくらは彼女の元へ椅子を持ってゆき、お茶とお茶菓子を目の前に出しました。

 紅葉はさくらの合図を待てず、疲れた体に暖かいお茶を流し込みました。

「……紅葉ちゃん、そろそろお話いいかな?」

 お茶菓子に手を出そうとした紅葉に、さくらが問いかけます。

 紅葉は驚き手を止め、近くにあったハンカチで手を拭いてから背を正して元気よく、いいよ、といってくれたのです。

「紅葉ちゃん、姫ちゃんみたいな子好きでしょう?」

「うん、大好き!ユードリッヒ君とも仲良さそうにしてたし。もっと仲良くなれると思う」

 笑顔の紅葉に安心したのか、さくらは姫の肩に手を添えて、目の前の瞳を輝かせている少女の前へ押し出しました。

「じゃあ、姫ちゃんの事、お願いできるかな?」

 お姫様は聞き間違いかと思い、体が固まってしまいます。

「うん!それがお姉さんの願いだもんね。国王様もお妃様も、他のみんなも全部あたしが引き取るよ!」

 聞き間違いではないことを認識すると、お姫様は怒るよりも前に悲しみの感情をあらわにしました。

「どうして?どうしてそんなことを言うの?」

 お姫様はさくらの手を掴んで止めてほしいと必死に訴えますが、さくらはその想いを無視して紅葉と話を進めてしまいます。

「私、遠いところに就職決まっちゃって、一人暮らししないといけないんだけど、部屋狭くて。それに、暫くは仕事に集中したいから。もうこの子と一緒にいることができないから、誰かこの子たちのこと好きになる子がいればいいなって思っていたの」

「うん。公園で話してくれたもんね。お仕事にも集中したいって。大丈夫!みんなずっとあたしが大切に守るから!」

 紅葉の言葉を聞いて、お姫様は家を飛び出してしまいました。

 お姫様は涙を堪えながらお城まで走ります。

 さくらの辛そうな表情。紅葉の嬉しそうな表情。ユードリッヒはそんな二人を見て笑顔を作っていました。

 それがどれだけお姫様の心を苦しめたのか、きっとさくらには分からないのでしょう。

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