第59話
第二志望の大学も落ちて、動揺する。
ただでさえ神経質になりやすい時期に、鬱病も重なっている。
なるべく落ち着くようにしているが、今は傷に蓋をしている状態なのだ。蓋の隙間から血が溢れて流れ出ている状態ではあるが。
どうしよう。落ち着け。落ち着け。大丈夫だから。
そう思って、第一志望の会場へ向かう。ここだけは何としても受かりたい。
それこそ梓がずっと憧れていた大学なのだ。直前まで勉強もしていた。
ここさえ受かってくれれば。祈るような思いで試験会場へ向かった。やはりたくさんの人が来ている。
筆記用具だけを出し、席に座っていると、試験官が裏返しにしたままのテスト用紙を順繰りに配る。
目の前まで来た試験官が、梓の机にぶつかり、梓の受験票を落とした。瞬間、更なる動揺が走った。
「あ、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
試験官は申し訳なさそうに受験票を拾い上げ、机の上に置く。
なんでこんな時に……。心が震え、運の悪さを呪う。
会場内が静かになると、試験が始まった。
なんとか落ち着いて、集中するようにして解くが、途中ふらつきが起きてやはり文字がぐにゃりぐにゃりと歪む。
一問、一問の文章を読解するのも、頭が鈍り時間がかかった。折れきっている心を無視して回答蘭を埋めていく。
だが、やはり正解をしているのかしていないのかわからない。手ごたえもあまり感じない。
だめかもしれない……。途中でそう思って泣きそうになった。
三教科のテストが終わると、泣き顔で家に帰った。
家に帰っても、母は食事を作っているだけで何も言わない。
さらにはなにか機嫌が悪いのか、突然怒鳴られ八つ当たりまでされてしまった。
自室に籠り、疲れた心身を休める。どうしよう。ここまで全滅。
全て落ちたら……。あれだけ勉強したのに、冬休み前の模試では今日受けた大学もA判定まで持ち直したのに。全て落ちているから全く安心感がない。第一希望が落ちたら、もう絶望しかない。
でもあと二校ある。あまり行きたいところではないけれど。
三月の後期試験も受けるか。第一志望のところに後期試験はない。
でも、親のあの態度の悪い状態で後期試験を受けさせてもらえそうにない。
思えば中学受験をした時も、親が安心していただけで梓の心は休まることはなかった。
約三年間、午前零時過ぎまで勉強をさせられた挙句、全く行きたいところではなかったからだ。
大学受験でそれを克服したい。
そうして安心して春を迎えたい。そういう経験をしてみたい。
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