第45話
夜、両親がそろっているところを見計らい、勇気を振り絞り言うことにした。
「ねえ、今日心療内科に行ってきたんだけど」
テレビを見ていた父が梓の顔を見る。
「心療内科?」
「今度の土曜日、両親そろってきてくださいって」
渋い顔をして首をかしげる。
「なぜだ」
「私、眠れなくなったの。不眠症。学校にも問題があるけれど、家庭にも問題があるかもしれないからって」
「眠れないから睡眠薬を貰うために心療内科へ行ったんでしょ」
母も口を挟む。母は物事をあまり深く考えず、表面的にしか見ない。
時々鋭いときもあるが、あまり裏になにがあるのかを考えようとしない。
単純なのだ。
ため息をつきたくなる。
「眠れなくなった原因があるんだよ。その話をするから来てくださいって」
父が口を開いた。多分何某か梓を責め立て行かないと言い出すのだろうと察したので、父がなにか言う前に間髪入れずに話すことにした。
「両親が来ない場合は、先生から連絡しますって」
「とはいっても、なにが原因なんだ。俺たちは別にお前を虐待しているわけではないし、自由にさせてやっただろ」
自由? どこかだ。行きたくない学校に入れたのはあなたたちじゃないか。そう言いたくなるのをこらえる。
「とにかく、来てくださいって。土曜の午前、よろしく」
うるさく追及されるのが嫌で、すぐに自室に行った。息も絶え絶えに受験勉強をしてから、睡眠薬を飲んで早めに就寝する。
一時間ほど眠れなかったが、急に睡魔が襲ってきて意識がなくなった。
目を覚ます。朝になっていた。
白んでいく空を、明け方に聞こえてくるカラスや雀の鳴き声を聞かなくて済んだ。久しぶりによく眠った気がする。
だが、猛烈に頭がふらつき、なかなか起きられない。
なんとか踏ん張って身を起こすが、立ち上がればよろめいた。
眠気がかなり残っている。
薬の副作用なのだと思った。頭が働かない。
ふらついたまま頑張って学校へ行き、授業を受ける。だが、薬の副作用が凄いのと、相変わらずの心が重さで、突っ伏していた。
聖書の時間、学院長にえらく怒られ、理由を手短に話すと、保健室へ行けと言われた。
また保健室? そんなざわめく声が聞こえてくる。梓は外野を無視して保健室へ行く。
座っていた菊池が梓の異変を感じて、びっくりしたように立ち上がった。
「三村さん、どうしたの。なにかどんどん様子が悪くなっているような気がするのだけれど」
「全然眠れなくて昨日心療内科に行きました。睡眠薬を貰ったのですが副作用が酷くて。それに、心が苦しくて。ポキリ、ポキリって頭の中でずっと音が聞こえていて……」
「そう。心理状態がよくないのね。その先生とはよく話せた?」
「はい。今度は両親と診察を受けることに」
「ならよかった。いいわ。寝ていなさい」
心配そうに梓を見ながらベッドに促す。ベッドに入ると、菊池はカーテンを閉めた。
もうここで眠れるだけ眠ってしまおう。副作用の反動で眠れる。これまで眠れなかったぶん、寝たいだけ寝るのだ。
梓はすぐに夢の中へと入っていった。
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