第43話

梓は近くの心療内科を探した。もう、明日にでも行きたい。


近場の心療内科の中から、よさそうな先生がいそうなところと明日行けるところを探す。口コミもちゃんと見て。


ひとつ、すぐに予約できるところがあった。だが、口コミが悪い。


『先生はすごくいい人なのですが、とにかく待ち時間が長いです』


『待ち時間が長すぎて、他の病院に変えました。六時間待ちはあり得ない。でも先生は人格者と言える人です』

 


口コミには待ち時間がひたすら長い、とばかりある。


そしていい先生だとも。先生を取るか、待ち時間の短いところを取るか。


だが探しても、他のところは明日空いていない。


ネットで予約する。その先生は別にカウンセラーを持たず、自身でカウンセリングもやっているらしい。


学歴を見てみると、医学部を卒業した後十二年実務を積んでから、心理学部のある大学に三年次編入、大学院まで行って臨床心理士の資格も取得している。どんな先生なのだろう。


布団に入ったが、結局窓際の白む空を眺めているだけだった。




学校を休んだ。今年すでに四日休んでいるが、四日程度なら大学受験にあまり響かないだろう。


大学受験の一般入試って、学力だけじゃなく出席日数も考慮されるのだろうか。


よくわからない。でも多分、出席日数は参考程度で学力重視だろう。不登校の子が大学に受かったという話も聞いたことがある。



九月中旬の、まだ暑さの勢いが収まらない中、一駅先の心療内科へ向かう。扉を開けるとすぐに受付が見え、奥に診察室がある。


問診票に必要事項を書き、受付の女性に渡して待合室で待つ。



ぐったりしたままソファーにもたれている。このまま倒れこんでしまいたいのをぐっと抑える。待っている人は梓の他に一人しかいない。


カウンセリングもしているせいか、待ち時間が本当に長い。


一時間半ほどして、診察室から人が出てくる。次に受付の女性から先にいた女の人が呼ばれた。



そこからさらに一時間。やっと梓の名前を呼ばれた。


診察室に入ると、五十代くらいの男性の先生が穏やかな表情で座っていた。ガラスのローテーブルとリラックスできるような深緑色のソファーがあり、向かい合うように座る。


「初診ですね」


「はい」


まずは基本的な家族構成や家族関係を聞かれ、はいかいいえで答える用紙を渡された。気分は重たいですか、常に泣きたいですか。


そんな質問が並んでいる。ぼんやりしたままマルを付けていく。


ペンの音だけが聞こえていた。終わって用紙を出すと、先生はその用紙を見つめ、なにやら計算を始めた。そうして息をつく。


「お話を伺いましょう。高校生ですよね。どうされたのですか」

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