第37話
七月も三日を過ぎれば、まだ梅雨は明けなくても暑さがものすごく堪えるようになってくる。
湿度と暑さの中、学校へ行く。
教室の中にギスギス感はあるものの、受験もあるし期末前なので勉強をしている子が多く、まあまあ平和になった。
三人は懲りずに学校へ来ているが、三人だけで固まって過ごしており、誰も話しかけなくなっている。
だがその三人も、聞き耳を立てていればバカな話題で笑っていた。
あまり反省していないのだろう。吉岡から聞いた話によると、お金は盗まれた分だけ保護者に返してもらったらしく、謝罪も受けたという。
だが、梓は謝ってもらっていない。教師と犯人からは、謝ってもらえていない。
それがなんだか腑に落ちない。
昼休みに職員室へ行き、竹林に体育祭に穴を開けたことを謝っておいた。
少しでも心証をよくするためだ。母に一筆書いてもらったと嘘をついて、梓は用紙を渡した。本当は梓が筆跡を変えて書き、家からこっそり判子を取り出して押したものだ。
「四十度近くの熱が出たのなら仕方がない。災難だったな」
そう言って用紙を見ると、納得したように頷いていた。
「失礼しました」
頭を下げ職員室を出る。
授業ももう、発表しろというものはなかった。
そのまま期末試験の時期になり、テストを受けて夏休み直前に通知表が返って来る。
体育の成績は2になっていた。ほらやっぱり。
梓は内心で思った。絶対1にはしないだろうと睨んだとおりだ。
体育祭から三日程度休んで、その時に心身共になんとかなるだろうと思っていたけれど、心はなかなか回復しない。
ああ、そうか。盗難事件のことも嫌だったけれど、この学校から離れられない限り、重たい心は続くのだ。
夏休みに入ると、ほぼ毎日のように予備校へ通った。
予備校は学校とは違って本当に気楽だった。毎日何時間も勉強するのはきついけれど、なにひとつ問題は起きない。
神よ、と言っている人も一人もいない。財布を盗むような子もいない。腕にゴムをして文句を言う人もいなければ、スカート丈に文句を言う人もいない。それに男子もいるから新鮮さも感じられる。
でも、予備校にいる男子を見て思った。自分も恋の一つくらいしてみたい。
女子校では青春らしいことがまるでできない。重いものも全部持つし、必要であれば大掛かりな大工作業もする。
そういうことを、男子に手伝ってもらいたいという憧れみたいなものも心の奥底にはあった。
共学で、男子と気軽に話し合える学校に行きたかった。なんであんな悪魔学校に行かなければならなかったのだろう。
とりあえず集中。
毎日勉強を頑張ったが、模試の結果は悪くなっていた。
高三のこの時期に成績が下がったことにショックを受けたものの、なんとか気持ちを落ち着けて、勉強に励む。
だが気持ちは相変わらずすっきりしない。
思い切って一日遊ぼうか。
予備校から帰ると、雪乃と五十嵐にそれぞれラインを送ることにした。
まずは雪乃から。
『雪乃、元気』
すぐに既読がつく。
『いや、勉強がしんどい』
『ちょっと一日遊びに行かない? 五十嵐さんも誘う予定だけど』
『いいよ。どこ行く』
『私をずっと庇ってくれていたお礼も兼ねて、なにか奢る』
『気を遣わなくていいのに』
『奢らせて。グルメしよ』
『わかった』
原宿に行くことにした。人は多いだろうけれど、気分を変えるために、普段あまり行かないところがいいだろうと思った。
五十嵐にもラインを送る。
『五十嵐さん、今ちょっといいかな』
すぐに返事が来た。
『どうしたの』
『私の疑いを晴らしてくれたお礼に、原宿で奢らせて。雪乃も一緒に』
『別にお礼されるほどのことはしてないよ。私がやりたくてやったことだし。でも、遊びに行こうかな』
雪乃や五十嵐と相談して、予備校のない二日後に原宿に行くことにした。
なんだろう。なにかとても苦しい。胸がじくじくと痛む。
机にスマホを置くと、梓は胸をさすった。
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