第36話
相変わらず竹林の厳しいダンスの練習が終わり、終礼をして放課後になる。
工藤、山田、小森は生徒指導室へ行っていた。
多分細谷から軽く注意されるだけで赦されるだろう。
教師側は窃盗罪があっても加害者に処罰を考えていないらしいから。
それに比べて、梓は細谷からしつこく疑われ、謝罪もされていない。
なんだかそのことに気分がすっきりしないまま、雪乃と帰る。
すると他のクラスの、よそよそしくなった子が近づいてきた。
「三村さん」
「どうしたの」
「昨日動画が流れてきたの。ごめんね噂信じて、私も疑っていた。ちょっと避けるような態度をとって本当にごめん」
梓は無理に明るく笑った。
「いいよ、気にしないで」
「でも」
「いいから。もう、いいから」
必死に謝る子たちを、両手を軽く挙げて上下させる。
本当にもう、どうでもいい。なにもかもが面倒くさい。内心でそんなことを思う。
ああ、と思う。心は堕ちたままなのだ。真犯人はわかっても、犯人扱いされたことの傷が消えていない。
信じられると思っていた教師に疑われたことも、財布を盗む子でしょと言ってきた教師へのショックも、まだ残っているのだ。
あの女性教師からの疑いも晴れていないのだろう。犯人が捕まっても、気持ちに変化が起きない。
謝ってきた子と別れ、雪乃とも駅で別れると、予備校へ向かった。
結局三人は細谷に軽く注意をされただけで学校では問題にならなかった。
服部と小林、吉岡の保護者と、犯人である三人の保護者同士で話し合いをすることになったらしいが、それはあくまで個人間で行われることで、学校は全く関与しない。
そして保護者を交えた話し合いの内容を、もう梓には細かく知る術もない。
体育祭は当日竹林に四十度近い熱を出してしまったと母から電話をしてもらい、予定通り休んだ。
熱なんてないけれど、そうでも言わなければ竹林に納得してもらえないだろう。
母はなんで休むのかと少し責めてきたが、もう心身が辛いからと言って、部屋に籠り一日中家で横になっていた。
ダンスに一人分の穴が開いて、前後左右にいる子は困るだろうけれど、なんとかやってくれるだろう。
それにしても心がだるい。
なにを考えても、なにをしていても非常にだるい。
昼間熟睡しても、夜また熟睡する。寝ても寝ても眠い。
結局、三日ほど学校を休み、そのうちの一日は夕方から予備校へ通って猛勉強をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます