第34話
五十嵐と別れ、ぐったりしながら家に帰ると、母に髪を五センチほど切り揃えてもらった。
ご飯も半分残した。お風呂に入って受験勉強をしてみるものの、身が入らない。
明日からどうなるのだろう。
ノートを閉じるとラインの着信音が鳴った。
雪乃からだ。
『ねえ、今盗難犯人の証拠動画が誰かから送られてきたんだけど。梓のところには来た?』
早速五十嵐は攻撃を仕掛けたらしい。今頃クラスの子に全員知れ渡っているのかもしれない。あの三人はまだそれを知らない。証拠を見せつけられてどう思うだろうか。
『ある子に証拠動画を全部見せてもらった。今日呼び出されたのは実はその件だったの。だから私のところには来ていないよ』
『え、そうだったの?』
『嘘ついてごめんね。私も話を聞くまで知らなかったから』
そっか、と短くラインが入ったきり、雪乃から連絡は途絶えた。
考えたいこともたくさんあるのだろう。
嵐はきっと、明日起こる。
胃がキリキリする。もう疑いは晴れて、犯人も分かって証拠も流れた。
でも、胃が痛い。多分クラスのギスギス感が嫌なのだろうな、と梓は思う。
教室へ行った。すでに来ている子たちも、みんな動画の話で持ちきりだった。
雪乃も深刻そうな顔で教室に入って来ると、梓におはよう、と言った。おはよう、と返す。
小森、工藤、山田が来ると、一気に場に緊張感が走った。そうして服部は山田の前に立つと、睨みつけ、怒ったように言った。
「ねえ、財布とお金、返してくれない?」
「なに言ってんの」
山田がとぼける。
「犯人あんたたちだよね?」
「なに、今度は私たちを疑うの」
工藤が睨み返す。服部はスマホを三人に向け、一部始終を見せる。例の証拠動画だ。
すると、すっと三人の顔が青ざめていく。
「こんなの、嘘だよ。誰かが私たちがやったと見せかけた編集をしたんじゃない」
小森が小さな声で言う。
「そんなことできる子がこのクラスにいると思う? しらじらしい嘘をつかないでよ」
服部がはっきりした声で言うと、山崎も叫んだ。
「おまえらいい加減にしろよ! 悪いことしているっていう自覚ないの? クラスにこの証拠動画もらった人、たくさんいるんだよ」
「誰がそんなことしたの?」
山田は泣きそうな、だが責めるような顔で立ち上がる。
それに対して、誰も何も言わない。
「昨日一斉にその動画が流れたみたい。もう証拠はあがっているんだから言い逃れできないよ」
鈴木も強い口調で言う。
クラス中が、一気に三人を責め立てる。
小林や吉田も、財布とお金を返してと言っていた。
「三村にずっと罪をなすりつけていた感想はどう? 気持ちよかった? あんたたち三人、三村に濡れ衣を着せて責めていたよね」
高瀬が足を組みそう言った。
三人は黙ったままうつむく。山田が泣き出した。
「犯人のくせに何泣いてるの」
渡辺が責める口調で言う。クラスの半数以上の子が三人の前に集まって、色々と問い詰めていた。
被害者である吉岡は、一歩下がったところで様子を眺めており、五十嵐もいつもどおりだ。
「ねえ」
梓は立ち上がり、三人のもとへ行った。
「盗んだ動機はなんなの? 私に罪をなすりつけていた理由は? 私、工藤さんのことは中等部の時いじめられていたからもともと嫌いだったけど。中等部の時私の財布を盗んだのも工藤さん?」
工藤は首を振った。
「それは違う……私じゃない」
「あ、私それ覚えているけど、いまさら信じられるかよ」
渡辺が煽る。
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