第19話

阿部、五十嵐、上田、神楽、工藤、小林、小森、笹野、鈴木、高瀬、西村、服部、見澤、森川、山崎、山田、吉岡、吉田、渡辺。

 

 

学校から帰って、地獄のような精神状態の中、梓を除くクラスメイトの苗字を書いてみた。


この中に犯人がいるのだろうか。


それとも他クラスの生徒だろうか。あるいは教師が犯人だということもあり得る。


スマホを手に取る。中等部の時部活動が同じで、今はクラスが離れてしまっている田崎に話を聞こう。


田崎は今、一組だ。中等部の時は四人だけしかいない天文部だった。面倒見がよく、明るい。


人を仲間はずれにもしないし、さっぱりしている。


『たっつん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど』


ラインを送る。田崎のあだ名はたっつんだ。


『おお、みむらんどうした』


すぐに返事が来る。田崎からは「みむらん」と呼ばれている。


『うちのクラス、今盗難が頻発しているんだけど』


『聞いている』


ということは多分梓が犯人であることも噂で聞いているのかもしれない。でも田崎は触れない。


『たっつんのクラスにも盗難ある?』


『ないなぁ。三組にあったことも聞いたけど、うちのクラスは平和だよ』


『そっか。ありがとう』


『なにかできることがあったら言ってね。深刻そうだし』


お礼を言ってラインを終わらせる。他クラスの子がわざわざ梓のクラスへ来て誰かの財布を盗むことは考えにくい。


他クラスの子が遊びに来ることもあるけれど、ごく少数だ。やっぱり同じクラスの子が財布を盗んでいるとみていいだろう。


森川雪乃を除けば、犯人候補は十八人。自作自演ということもあるのだろうか。


いや、自作自演ならば、その動機が分からない。


これまで財布を盗まれたのは、小林、服部、見澤、吉岡の四人。


被害者が犯人ではないとすれば、梓と雪乃も差し引いて、犯人は十四人に絞られる。


誰だろう。単独か、複数か。単独で短期間の間に四人もの財布を盗めるのだろうか。


梓は被害者の名前と雪乃の名前にマジックで二本線を引き、犯人を絞ろうとする。


高瀬と山崎が梓を犯人と決めつけ広めた。それも疑わしい。五十嵐も普段誰とも話さず、廊下側の教室の隅で本を読んでいる。


盗難についても無言を貫いている。上田や小森、笹野や西村、吉田とはライン交換をしているものの、あまり接点がない。雪乃以外の誰もが怪しく思えてくる。


これ以上被害が広まるようなら、ますます梓は窮地に追いやられる。


どうしよう。これだけでは犯人がわからない。


真犯人を見つけて、疑いを晴らさないと。でもどうやって見つければいい? 


いや、それ以上に梓が教師から犯人として疑われていることに傷ついているし、謎のブラック校則や決まり事でなかなか学校から帰してもらえないことにもメンタルがやられている。



親に言おうか、とも考える。でもとてもじゃないけど、娘の話を聞いてくれないような親には言えない。


多分何か怒られて梓が傷ついて終わりだろう。親も信頼していない。


頼るべきは大人かもしれないけれど、その大人が味方になってくれない。


誰にも頼れない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る