第17話

月曜になり、廊下を歩いていると、前に校庭を出たときに手を振ってくれた女子たちが三人いたので、声をかける。


「おはよう」


「お、おはよう」

 

なんだか三人ともよそよそしく、すぐに目を逸らす。話すこともなかったので、不思議に思いながら教室へ行くと、教室もまた砂埃にまみれたような空気感があった。


誰も話しかけてこない。それになんだか悪口を言われているような気がする。


間違いなく、梓に盗難の疑いがかかっている。そんな気がした。


でも、そんな根も葉もない根拠と噂を流したのは誰? なんでそんなことになっているのだろう。ちゃんと言わなくちゃ。でもどうやって?


雪乃が「おっはよー」と元気な声をかけてくる。梓も明るく挨拶をすると、雪乃は真顔になった。


「ちょっと来て」


囁くように言う。言われた通り立ち上がると、雪乃はトイレへ向かう。梓もついていった。雪乃はトイレに誰もいないことを確認すると、小さな声で言った。


「聞いた話なんだけど、梓が盗難の犯人だって噂になっている」


「うん。それは私も感じた。他のクラスにも広まってない?」


「そうみたい」


「誰が広めたのか、知っている?」


「私は渡辺さんから聞いたけど、噂を広めたのは高瀬さんと山崎さんみたい」


高瀬と山崎。細谷に呼び出されたとき、教室にいた子たちだ。おそらく呼び出されたことで、見当をつけて決めつけたか。


弾かれるようにトイレから出ると、梓は急いで教室に戻った。ちょっと梓、と雪乃の焦ったような声が聞こえてきたが、無視をして高瀬の席に向かった。


机に手をつく。


「なに」


高瀬は睨みつけるような顔で梓を見る。その目にひるむが勇気を出していった。


「盗難の犯人、私だって山崎さんと決めつけて噂流したみたいね」


クラスがまた静まり返った。すると山崎も寄って来る。


「だって、三村でしょ? 細谷に呼び出されていたじゃん。あの時何を話していたの? お前が盗んだんだろって言われたんじゃない?」


高瀬がうすら笑いを浮かべる。


「私じゃない。本当に私じゃないから!」


梓は叫ぶ。すると山崎も口を挟む。


「担任が疑うのも無理ないよ。だって、あの日遅刻したのは三村だけだし、礼拝の時は教室に誰もいないし、一時間目に体育の時に財布を盗めるのってどう考えても三村しかいないじゃん」


私じゃない。私じゃない! なんで勝手に決めつけるの?


梓は内心でそう悲鳴を上げていた。


「細谷にも言ったけど、あの時私は具合が悪くてすぐに保健室に行った。菊池先生に聞いてみればすぐにわかる。保健室に行って聞いてみてよ。それも細谷には言った」


「でもさ、どうとでもいえるよね。クラスに来て、盗んでから保健室に行ったのかもしれないし。証拠、出してみてよ」


高瀬がにやつきながら掌を見せる。


「証拠はないよ。でもあの日、私はクラスには行っていない。すぐに保健室に直行した。そっちこそ証拠もないのに私がやったと決めつけて嘘の噂を広めないで! 他のクラスにも影響が及んでいる」


「だからやっていないなら証拠出してよ」


「はい、喧嘩はそこまで」


鈴木が仲裁に入った。


「私も噂は聞いているけど今はなんとも言えない。三村さんが犯人かもしれないし、そうじゃないかもしれない。これ以上続くようなら警察にも相談しようと思っている。だからもう少し待って」


そう言って梓と、高瀬、山崎を引き離す。学級委員も中立の立場をとっているが、梓のことを信じていない。


チャイムが鳴る。絶望しながら席に座った。


発端は、担任が梓を疑い生徒指導室に呼び出したこと。


それを見た高瀬と山崎が、犯人だと決めつけ周囲に流した。


なにそれ。なにこれ。なんで私が犯人にされているの?


クラスの空気はとげとげしさからギスギスしたものに変わった。


周囲の梓を見る目が疑いに変わっている。それをありありと感じる。


前後左右の席のどこもそうだ。みんなが疑いの目で見ている。


怖い。みんなの目が、すごく怖い――


細谷が入ってきて点呼を取る。貴重品を集めて、教会のレポートを提出する。


空気が重たい。居心地が悪い。


細谷が疑うのでは、もう誰も頼れない。身の潔白が証明できない。


そのことに鬱屈とした気持ちを抱えながら、クラスのみんなで第一礼拝堂に行った。



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