第16話

噂が流れたこともあって、日曜は久しぶりに教会へ行った。


この前院長に怒られたから、抜き打ち検査で目を付けられるかもしれない。


在籍している教会は実にシンプルだ。みんなの見えるところに十字架があり、壇上と、オルガンと、パイプ椅子があるだけ。雪乃の行っている教会にも行ってみたことがあるがえらい違いだ。


雪乃の通っているところはちゃんと教会らしさがあった。


ステンドグラスに、薄暗い照明、横長の椅子。この五年で、梓はキリスト教を受け付けなくなっているけれど、通っている教会の違いにはショックを受けた。


通っている教会の雰囲気があまり好きじゃない。


「三村さん、久しぶりですね」


男性の牧師が優しく声をかけてきた。


「はい。まあ、気が向いたので来ました」


そう誤魔化す。本当は抜き打ち検査が怖いからというのもある。


中等部の時は毎週行かなければならなかった。レポートを出さなくてよかったけれど、牧師から学校指定の用紙に判子を貰わなくてはならなかったのだ。


面倒になった子が牧師と同じ名前の判子を買って押していたが、なぜか教師側にはバレて注意をされていた。


やはり教会に抜き打ちで出席確認をしたのだろう。


梓は空いている椅子に座った。顔見知りはいるけど挨拶程度でそんなに喋らない。信者が集まり、賛美歌を歌う。



そのあと牧師が聖書でルカの福音書を広げるよう指示する。そうして淡々と説明を始める。学校の教師たちとは違いあまり体験談を話さず、ただルカという人物について語り、ルカが聞いたキリストの教えを説く。


また、神の時間というものについて教わる。神の世界に時間は存在しないのだとか。ふうん、と思って聞いていたが梓は途中から寝ていた。だが、寝ていても注意する人はいない。


終わると円を組み、誰もが知っている有名な歌を、キリスト教の歌詞に丸ごと変えて歌う。梓はこれがとても苦手だった。例えてみれば現代のJPOPの主語を全部「主」に変えて歌うようなものだ。吐き気がする。

 


午前はこれで潰れた。顔見知りの人に挨拶をして家に帰ると、パソコンでレポートを書くことにした。あまり聞いていなかったので内容はところどころしか覚えていない。


「キリストは信仰の末見捨てられ磔にされ苦しみました。神は過酷な試練を与えたのかもしれません。ですが、神様ってやっぱりいないのではないかと思います。キリストは復活こそしているものの、神が見捨てるという行為が信じられないからです。磔にしたキリストを神はどういうった目で見ていたのでしょうか……」

 


ルカの福音書を引用しつつ、長々と、三枚にわたり神はいないのではないかというのが私の見解だ、と書いておいた。


嘘でも心証がよくなることを書いたほうがいいのかもしれない。


でも、キリスト教に関してだけは、嘘はつきたくなかった。だって、神はいないと思うから。


それがこの五年ちょいで学んだ梓の結論なのだ。


それに日本人は大抵死んだら仏教に帰依する。クリスチャンは違うのだろうけれど、キリスト教ばかりではなく授業ではもっと視野を広げて、仏教や神道の見解を軽くでもいいから教えてくれてもいいのではないのか、とも思う。


レポートを終えると、昼食を終え、すぐに予備校に向かった。


結局金曜に日本史を受けられなかったから、授業後に塾講師に色々と訊く羽目になった。


かいつまんで教えてはくれたけれど、金曜の分のノートは取れていないから、損をした気持ちになる。


誰かに借りたくても知り合いはいないから声をかけられない。それから古文と英語の授業を受けて、家に帰ると、きっちりと復習をした。


明日からまた学校だ。早く終われ。そう祈った。





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