第15話

放課後になるとそろそろ抜き打ち検査があるらしいとの噂が流れていた。


誰がどこから情報を仕入れてくるのかわからないが、クラスの中にも教会へ行っていない子は結構いる。


「はあ、教会サボっているから行かないと」


渡辺がそう言っている。


細谷が入って来た。


ホームルームと終礼が終わると、校内放送が入った。


「聖花女子学院二年、放送部です。今回は私が代表して皆さんにお伝えします」


二年生のかわいらしい声が聞こえてくる。


「私たち二年生は、ダンスを中心に活動しています。この学校では三年生が体育祭の時にダンスを披露する決まりになっていますが、私たちは一年の頃から憧れを持ち、二年になってダンスに励みました。私たちは全学年の方に見てもらおうと、ダンスを練習してきました。今から校庭で披露するので、ぜひ見てください。梅雨の季節になっていますが、今日は雨が降っていないので、雨の降らない日に披露しようと思っていました。今後いつ雨が降るかわかりません。私たちの練習の成果を見てください」


いきなり二年生のダンス? 見ていけ? いやいや、私は予備校へ行く。そう思って席を立ち、雪乃と一緒に廊下に出ると竹林と鉢合わせた。


「帰るの?」


「はい」


「ダンス、見て行きな」


仁王立ちをし、無言の圧力をかけてくる。


「いえ、私は予定があるので」


「二年生が一丸となって頑張ったダンスだ。見に行け!」


半ば怒鳴るように言う。梓は抗うことにした。


「この前もスカート丈検査で時間を取られました。三年生の大事な時期です。どうか予備校に行かせてください。この前は行けなかったので」


雪乃も頷いてくれた。


「そうですよ。この学校、放課後に時間取られすぎて私たちはあまり勉強ができていません。プライベートまで干渉しないでください」


「今日は金曜日だ。土日に勉強すればいいじゃないか」


「だから、金曜でも大事な予備校の授業があるんです」


竹林は怒り狂ったように梓と雪乃の腕を掴み、半ば引きずるようにして校庭に行かせた。


「パワハラですよ」


「生意気言うんじゃない。今の子は何でもハラスメントにしたがるね。そんな脅しに乗ると思う?」


梓はぐつぐつとした感情を抑え込む。


結局、竹林の監視の下で、二年生が特別なダンス用の衣装を着て踊るのを、一時間ほど見る羽目になった。


終わった頃には五時を過ぎていた。塾は五時から。また間に合わない。


精神が堕ちる。表情に、雪乃は声をかけた。


「顔色悪いよ?」


「そう? 大丈夫」


俯いて家に帰ると、自室のベッドに横になった。今日も予備校へ行けなかった。


自由のなにもない学校。寄り道もバイトも許されず、寄り道しても教師に見つかる。


中一の時からの楽しい思い出がなにもない。苦しい。


梓は声に出さずにまた泣いていた。


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