第13話

「細谷先生からはなにかありますか」

 

鈴木が言うと、細谷は梓を一瞥した。やっぱり疑われている。


そう思った。


「犯人は名乗り出なさい。では終礼を」


「待ってください。持ち物検査とかはしないのですか」


言ったのは神楽という子だ。


実家が神社だが、他の宗教も学びなさいと親に言われてこの学院に入学したそうだ。


実家が神社であることは、教師からは容認されている。


「そういうことはしたくない」


クラスからブーイングが起きる。


「抜き打ちで持ち物検査しましょうよ。じゃないといつまでたっても犯人は見つからないです」


笹野が、友達の恨みであるかのように言う。


「赦しなさいと、聖書にも書いてあるだろう。目には目をではなく、右の頬を叩かれたら左の頬も差し出しなさいと」


「そんなの納得がいきませんよ。問題解決に聖書は関係ないと思います。なんでもかんでも聖書の教えを守れというのは現実的ではありません」


「とにかく赦すということを学んでほしい」


この担任、だめだ。


梓はそう思う。犯人は名乗り出るわけがないいし、やっぱり赦せで終わる。


苛立ちながら終礼当番の子の指示に従い、讃美歌を歌う。マタイの福音書の一節を読み上げ、感想を言い、祈りを捧げて今日の学校は終わった。


明後日には社会の発表がある。まだ何もしていないけれど、まあ、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」についての感想を言うつもりだ。


あの小説には少し違和感があるのだ。いや、昔の欧米、西洋の作家には共通点があるのだけれど。多分、梓の持っている感想はこの学校に染められてから色濃くなった。



犯人は、早々に捕まってほしい。学校から出ると、すぐに予備校に向かった。平穏な時間だった。


塾講師も分かりやすく説明をし、梓の知識量も増えて、勉強が凄くはかどった。


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