第12話
昼休みになると、一人の生徒が騒ぎ出した。
「私の財布がない!」
叫んだのは見澤という子だ。またあ? とかえええっ、という声が聞こえてくる。
「これで三回目じゃん。犯人誰?」
クラスメイトの高瀬がそう言った。
ああ、これ、多分まだ続く。梓はそう直感を働かせた。誰かの財布が盗まれる。このとげとげしい空気からそう察する。
見澤は悲しそうな顔をして、鞄の中を見ている。
「大丈夫?」
見澤と仲の良い吉田と笹野が近づき、慰めている。
「私の財布盗んだ人、本当に誰なの! 許せない」
見澤は次第に怒り、怒鳴っていた。周囲は静まり返る。
「これで三度目。深刻な問題だよね」
鈴木が眉根にしわを寄せ見澤に近づいた。いつ頃まで自分の財布を見たかとか、席を離れていた時間はいつか、とか、色々訊ねている。
「社会に出ていたなら窃盗罪だよ。犯人が十八になっていたらもう成人だし、捕まるよ?」
鈴木はクラスの誰に言うともなく言った。梓の鼓動が脈打つ。
細谷はまた自分を犯人だというかもしれない。担任に疑われているというより、もう決めつけられている。これ以上被害が出たら、また呼び出されるかもしれない。
鈴木は見澤と一緒に職員室へ行った。細谷に話すという。
お弁当を食べても、あまり味がわからなかった。暗い面持ちでいると、雪乃が声を潜めて言った。
「梓、なるべく私と一緒にいよう。一人にならないで」
細谷から疑われていることで、気を遣ってくれているのだろう。
雪乃は梓を信じてくれている。そして梓も雪乃を信じている。雪乃は犯人ではない。
根拠はないけれど、中学一年の時からの友達だし、そういうことをする性格ではないからだ。
「うん、ありがとう」
でも、犯人はいつ見澤の財布を盗んだのだろう。きっと犯人独特の臭覚があって、隙を見つけるのが上手いのかもしれない。
鈴木が見澤と一緒に戻って来た。
「放課後クラスで話し合うって」
それだけ言って席に着くと、彼女たちもお弁当を食べ始める。
クラスの空気が益々悪いものに変わっていく。みんな普通にお喋りをしているけれど、内心では疑心暗鬼になっているといったところだろうか。
疑われないようにしないと。梓はなるべく気配を消すようにした。
目立ったこともしたくない。でも今日は学院長に怒られてしまった。梓の感想も、他の生徒がどう思ったかわからない。
放課後になると、細谷がクラスに入って来た。
終礼の前に鈴木が立ち上がり、「三件起きた盗難について話します」と言った。
「どうするの」
山崎が椅子に深くもたれかかり言う。
「細谷先生と話し合った結果、貴重品は朝まとめて預かることにしました。返すのは購買部に行く人もいるだろうから昼休みに一度。昼休みの終わりにまた集めて細谷先生に預けます。あとは放課後に返すことになりました」
生徒たちは納得したようだった。梓も納得したけれど、なぜこの学校は今まで朝に貴重品を預けることをしなかったのだろうと思った。
多分他の学校ではやっているところもあるはずだ。それに、昼や放課後に財布が返って来るなら手癖の悪さに慣れた犯人が、多分隙を見計らってやるはず。
おそらく中一の時か、あるいはその前から何度もやっているのだ。あまり意味のないことのように思えた。
過去のことを思い出し、梓は気が重くなる。
小学校の頃、クラスに友達がいなかった。受験組が梓一人で、やっかんだ子たちからいじめられていたのだ。
そうして卒業間際に仲良くなった他のクラスの子がいたけれど、休日に一緒に遊びに行くと、万引きをしていた。止めようと思ったが、止められなかった。
止めたらまた、いじめられるかもしれないと思ったからだ。その後も何度か遊びに行ったが、その度にその子は万引きをしていた。
手際がいいのだ。梓はその子と縁を切った。止められない自分にも腹が立ったけれど、なによりもゲーム感覚で万引きをしているのが許せなかった。
梓の親に話してもあまり向き合ってはもらえず、卒業式の日にその子の保護者に伝えておいた。その後どうしているかは知らない。
多分今回の窃盗も、犯人はゲーム感覚とお金欲しさにやっているのだろう。
赦せない。
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