4.深窓の令息
「若。
「具合でも悪いのか?」
問うと八重波が答えるよりも早く、障子の向こうから声が返ってきた。
「病ではない。ただ――」
内側から障子が開けられ、口をへの字に曲げた若君が姿を現した。
部屋の中は闇というほどではないが、灯りがなければほぼ何もできないという程度には薄暗い。それにもかかわらず、灯りの一つも点さずに飛鳥はここ五日ばかり、仄暗い部屋の中に引きこもっているのだった。
「何やってんだよ、辛気臭い。深窓の令嬢でもあるまいし、そんな何日も部屋ン中閉じこもってっと、体がなまっちまうぞ」
外に面した部屋ではないため、外からの直接の光はほぼ皆無だ。辛うじて部屋の内側の障子から入る、申し訳程度の自然光が、飛鳥のいる部屋をぼんやりと照らしていた。
その中にたたずむ飛鳥は両端の下がった口と同様に眉もハの字に下がりきっている。城主の若君にあるまじき、なんとも景気の悪い人相だった。
「爺や。せめて灯りでも点せよ」
「い、いや。灯りはつけるな」
誘鬼はまるで用をなしていない燭台を指さした。しかし、それには飛鳥が首をおおきく振って拒否した。
「……なんで?」
「それで、お主を呼んだんじゃ。誘鬼殿」
ぶんぶんと首を振る飛鳥に代わり、八重波はため息交じりにつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます