4.深窓の令息

「若。誘鬼ゆうきをお連れいたしましたぞ」

 八重波やえなみに連れられて飛鳥あすかの住まう邸宅に足を踏み入れる。普段なら屋敷の外を回り、客間の縁側に行くのだが、この日は屋敷の中を通り、薄暗い奥の部屋へと案内された。

「具合でも悪いのか?」

 問うと八重波が答えるよりも早く、障子の向こうから声が返ってきた。

「病ではない。ただ――」

 内側から障子が開けられ、口をへの字に曲げた若君が姿を現した。

 部屋の中は闇というほどではないが、灯りがなければほぼ何もできないという程度には薄暗い。それにもかかわらず、灯りの一つも点さずに飛鳥はここ五日ばかり、仄暗い部屋の中に引きこもっているのだった。

「何やってんだよ、辛気臭い。深窓の令嬢でもあるまいし、そんな何日も部屋ン中閉じこもってっと、体がなまっちまうぞ」

 外に面した部屋ではないため、外からの直接の光はほぼ皆無だ。辛うじて部屋の内側の障子から入る、申し訳程度の自然光が、飛鳥のいる部屋をぼんやりと照らしていた。

 その中にたたずむ飛鳥は両端の下がった口と同様に眉もハの字に下がりきっている。城主の若君にあるまじき、なんとも景気の悪い人相だった。

「爺や。せめて灯りでも点せよ」

「い、いや。灯りはつけるな」

 誘鬼はまるで用をなしていない燭台を指さした。しかし、それには飛鳥が首をおおきく振って拒否した。

「……なんで?」

「それで、お主を呼んだんじゃ。誘鬼殿」

 ぶんぶんと首を振る飛鳥に代わり、八重波はため息交じりにつぶやいた。

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