からすき星

蜂蜜ひみつ

第1話 俳句 金星

寒月に 添うて金星 泣きぼくろ


かんげつに そうて きんせい なきぼくろ








月齢26の細い月が紺色の空に浮かぶ。

ガラス張りのこの高い部屋の窓からは、遠くまで見渡せる。

浅紫あさむらさきが夜を押し上げるように下からそうっと忍び込み、ゆっくりと溶けて交わっていく。


いつもは手を伸ばせないあなたのそばに添い、その少し冷えた素肌にそっと頬を寄せて。


「薄い月と明けの明星」


私は静かにそれを眺める。


月はあなたのようでもあるけれど。

目を閉じた瞳から、金星の涙をこぼす姿にも見え。


「私は泣くまい」

と。

目を開けたまま、まなじりを独り、サッとぬぐう。


やがて鴇色ときいろに染まる朝が訪れ、何も無かったかのように月も星も優しい湿度を持った夜に溶け、私の金星の時は終わりを告げるだろう。


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