第24話:
鉄のマグロ亭にて
「そういえば姉ちゃん。あの黄金の偶像はどうしたのぉ?」
それは、捜索願がでていたダヴィを無事冒険者ギルドへ送り届けた次の日の昼近く。
昨晩は鉄のマグロ亭を貸し状態での大宴会だったこともあり、飲み過ぎ&食い過ぎでこの時間まで爆睡していた二人は、昼食という名の遅い朝食を摂っていた。
その席でふと思いついたようにマルティナがそう訊いてきた。
「ああ、あれならイザベラの出産祝いにあててくれってソフィアに渡したぞ?」
何だ欲しかったのか? と目で問う。
するとマルティナはふるふると首を振り、
「うううん。アタシもそうしたかったから、姉ちゃんも同じ考えで嬉しいなって思ってぇ」
とフィッシュ&チップスを摘みながら静かに笑った。
そうしていると、飲み過ぎのせいとはいえアンニュイな感じを醸し出しているのと合わさって、妙に絵になるから不思議だ。
時折思うことがある。
この美人な少女は本当に自分の双子の妹なのだろうか、と。
同世代の中では背が高い方で、全体的にスラッとしている。なのに出るところはしっかりその存在を主張していて、プロポーション抜群。現に店にいる男どもの視線を一人で釘付けにしている。あ、女も混じってら。
それに引き換え、自分はそのすべてがミニマムでちんちくりん。ハーフリング族と間違われることもしばしばで、罠の対処に邪魔だからと髪型をベリーショートにしていることもあってか、小僧と間違われることもある。まったくもって不愉快な話だ。
ま、それを口にした連中は漏れなく地面の下でおねんねしているが。
「やっぱりアタシたちって相思相愛なんだねぇ♡」
マルティナが両手で頬杖をつきながらにこやかに言う。
「うん……えっ……あ〜……んん?」
何だろう、言葉のチョイスはともかくとして、ニュアンスが致命的に間違っている気がする。
「ハァ……それにしても子どもかぁ……アタシも欲しいなぁ――」
うっとりとした表情でそういうマルティナ。なぜか店の男たちが皆一斉に立ち上がった。女も立ち上がった。いや、お前は座ってろよ。
「――姉ちゃんのぉ」
が、続くマルティナの言葉に、立ち上がった者たちは揃ってズッコケた。ちなみにベッキーもズッコケた。
「何でよりにもよってオレのなんだ!」
思わず盛大にツッコミを入れる。
「えー、そんなのぉ、あ、愛してるからに決まってるじゃん♡」
もう言わせないでよぉ、と恥ずかしそうに身をくねらせるマルティナ。男たちは静かに泣いていた。女はワンチャンあるかも!? と息巻いていた。いや無ぇから。知らんけど。
「あ〜はいはい。オレも愛してるよ。あくまで家族としてだがな!」
「んふ。今はそれで十分だよぉ」
今は、の部分に酷い引っ掛かりを覚えたが、話が余計に逸れそうなのでツッコむのをグッと我慢した。
「それはそれとして、次にどこへ行くか決めないとな」
魔術の石板探しに〝
「この際だから全部回っちゃわない?」
「そうだな……ナージェリン遺跡での件もあるしな」
以前、オルコ討伐のためにエイダと行った遺跡のことを思い出す。あの時はなんの変哲のない遺跡に迷宮への入口が開いて大変な目にあった。まぁ、その甲斐あって新しい魔術の石板を手に入れられたのだが。
「よしっ。そうと決まればさっそく近いところから攻めていくぞ」
「おう!」
この国は広い。正直ひとつひとつ見て回っていたらどれだけ時間を要するか健闘もつかない。
それにまだ見ぬ強敵もたくさんいることだろう。
でも、それでも。マルティナとならどんな困難も乗り越えられる気がしているベッキーなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます