魔晶石と魔核⑤

「ここがそうか」


 男が示した場所に訪れた二人を出迎えたのは、物言わぬ骸とかした数人の坑夫と、むせ返るような血の匂いだった。


 しかし二人は顔色一つ変えずに入口に立って中を窺う。坑道内は等間隔でカンテラが吊るしてあり、松明は必要無さそうだ。


「まだ中に二体いるね」


「ぱっぱそいつら片付けて先進むぞ」


「は〜い」


 坑夫の遺体はギルドから派遣されてくるだろう応援に任せ、二人はいそいそと坑道の中へと足を踏み入れた。


 その奥にはマルティナが感知した通り二匹のゴブリンが居た。どうやら殺した坑夫の遺体をおもちゃにして弄んでいるようだ。


「頼んだ」


「頼まれたっ」


 こちらに気が付いたゴブリン達は、向かってくるマルティナに襲いかかっていったが、四匹をあっさり倒したその技量の前に、これまたあっさりと首を撥ねられ絶命していた。


 手早く耳を削ぎ、更に奥へ進む。


 そこには掘り崩された土壁の真下に、同じく崩された煉瓦だろう赤茶けた瓦礫が転がっていた。カンテラを手に取り、そっと石壁の穴から奥を窺う。


「思ったとおりだ」


 規則正しく積まれた煉瓦の壁が、前方と左側に通路を伸ばしている。少なくとも明かりが届く範囲に他の魔物は居ないようだ。


「じゃぁやっぱり?」マルティがはしゃぐように言う。


「ああ。こいつは迷宮ダンジョンだ。それもおそらく未発見のな」


『迷宮といえばお宝。お宝といえば迷宮』と云われているくらい、迷宮には数々のお宝が眠っている。もちろんそれ相応の魔物も生息しているため、必ずしもそれらが手に入る訳では無いが、心躍らずにはいられなかった。


 しかも迷宮のお宝は、その迷宮を発見し最初に踏み込んだ者に優先権が与えられる。これを喜ばずして何を喜べと言うのか。


 とはいえ準備は必要だ。二人は逸る気持ちグッとを抑えて現在の装備を確認する。クォレルの残弾はあと15発。回復系のポーションも治癒士の男に使ったため数が減っていたが、予備も含めまだ十分にある。その他の装備も問題ないようだ。


 そしてマルティナも長剣の状態を確認する。ティンバーウルフや、ゴブリンを切ったために多少の油が付着しているがこの程度問題にもならない。次いで刃こぼれがないか確認するがこれも問題なし。


 お互いに装備を確認し終えた二人は、「んじゃ行ってみるとしようか」と互いの拳を軽くぶつけ合った。


 迷宮内に足を踏む入れ、改めて周りを確認してみる。これまでに発見されてきた迷宮の内容は全て頭に入っているが、そのいずれにも煉瓦こんな造りにはなっていなかった。間違いない、ここは未発見の迷宮だ。


 ところが――。


「姉ちゃん、壁がっ」


 これはツイてるぞと小躍りしたい気分のベッキーの背後で、マルティナの焦った声が上がる。


「――なっ」咄嗟に振り向いてベッキーは絶句した。なんと今しがた通り抜けてきた穴が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。


 これはこの迷宮が持つ自動修復機能のせいなのだが、そんなことなど知る由もない二人は、慌てた様子で先程まで穴が口を開けていた煉瓦壁と取り付いた。


「ダメだ、ピッケルでも傷一つ付かねぇ」小型のピッケルを手に愕然とする。


「姉さん、オルコが二体こっちに向かって来てるっ」


 しかも侵入に気が付かれたのか、猪のような牙が目立つ豚のような顔をした巨漢がこちらに走ってくるではなはないか。


「ああ、もうっ」間が悪いにもほどがある。「とにかく蹴散らすぞっ」

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