第8話 準備

「涼香ちゃん! この看板作るの手伝って!」

「はーい」


 私たちのクラスは食べ物系の枠を見事勝ち取り、わたがしを作ることになった。

 まだまだ文化祭までは時間がある、と思っていたら文化祭前には夏休みと定期考査を挟むらしく、準備はできるだけ早いうちから始めるとかなんとかでもう文化祭の準備が始まった。

 可愛い形に作るのは難しいと考えられるので誰か完璧に作れる人が教えてくれた方がやりやすくなるから、と現在進行形で坂東さんが一生懸命やり方を模索中だ。

 最初は嫌そうな顔をしていた彼女だったが、だんだん楽しくなってきたのか今では笑いながら作業している。


「姫理。これ、そこ塗るの使って」

「わ。ありがとう、どうしようか迷ってたとこだった」


 何だかんだ話が合ったので姫理とも仲が深まった、と思う。

 週に一回ほど、家のカフェに来てニコニコしている彼女を見かけるくらいなのだから。廉より舞香より常連だ。舞香なんてここ数年カフェに来たことないし。


「はい! こっち注目!

色々足りないから買い出しに行こうと思うんだけど。買い出し係、じゃんけんで決めるのどう?」


 黙々と作業をやっているとクラス中に降谷くんの声が響いた。


「おぉ~! 文化祭の準備で買い出しなんて青春アオハルじゃねぇか!」

「じゃあたいら買い出し行ってくれるの?」

「……やっぱ、買い出しっつったらじゃんけんで決めるもんだよな‼」

「はいはい。みんな真ん中集まってー」


 降谷くんの掛け声のもと、一年二組じゃんけん大会!が始まったのだった。


………

……

 そんな風に始まったはいいものの、三十人以上いるのにそんな数回で終わるわけもなく、十人ほどのグループに分けて勝ち残った三人でじゃんけん、という形になった。

 そして私は最後まで残り決勝進出。みんなが見守る中三人でじゃんけんしたら一人負けして買い出し係確定となった。


「あと一人か。俺は本気で行くぞ」

「平、買い出し行きたいんだろ? 譲ってやるって」

「つべこべ言うんじゃねぇ! 俺は本気で行くぞ」

「いや待て! もうすこし、待て」

「あ⁉ 早くしろ‼」


 こうして、残り一枠の買い出し係をかけて戦いが始まった。

 しかし、仲がいいのか悪いのか、多分良いのだろうけどお互い同じのを出しすぎて決着がつかない。何度目かの掛け声を言い合った後、平さんが倒れた。


「おい、さっさと負けろよ!」

「だから、譲ってやるって言ってる!」


 言いあう二人をよそに、周りのクラスメイトは作業に戻ってしまった。

 もう、この人たち放っておいて一人で行こうかな。

 そんな風にも考えたとき、二人の間を取り持つように降谷くんが出てきた。


「そんなに行きたくないんだったら、俺が代わりに行くよ」

「は⁉ いいのか⁉ 荷物いっぱい持たなきゃなんて嫌だろ!」

「いや、二人のじゃんけんを永遠に見てるよりかは全然」

「おぉ! じゃあ頼む」

「なんならアイスとかおごるぜ!」


 クラスの人たちにパシリとして使われ荷物を持つのがよほど嫌だったのか、降谷くんの意見に平さんたちは大賛成のようで、二人はルンルンで降谷くんの肩をたたいた。

 作業に戻っていった二人を見て、降谷くんは呆れたようにため息をついた後こちらを向く。


「じゃあ、行こ」


………

……

「えっと、ザラメと……」

「コーラもかな」

「綿あめの棒って竹串とかかな……」

「あ、アイスも買っちゃお」

「あとは……」

「これとか?」


 スーパーについて買うもののメモを見ながら買い物かごに物を入れていく。メモにあるものはすべて入れ終え、後何かあるかと思い出そうとしたとき私の目の前に袋が出てきた。みんな大好きなポテトチップス。

 いや、食べたいけど。今買うのじゃないでしょ。


「さっきから降谷くん、変なものばっかり入れてるよね」

「え、そう?」

「コーラとかアイスとか。アイスはまだ入れてないけど……」

「……平がおごるって言ってたからいいかなって」

「あ、そう」


 悪びれもなくそういう降谷くんに、私は止めることをあきらめた。

 私、知らない。平さんの財布がダメになるだけだったらもういいや。

 そう思っていたら、肩をポンポンと叩かれた。


「涼香ちゃんも好きなアイス選んじゃって」

「……人のお金でカッコつけられても」

「とか言いながら取るんだ」


 私がアイスを一つ取り出したのを見て降谷くんがニヤニヤとこちらを見ながらそう言った。

 そりゃ、選んでいいと言われたのなら選びますとも。

 そしてお会計にそのまま進み、買い出しは無事に終了した。


「いただきます」


 溶けないうちに頂こうということで、スーパーの近くのベンチに座り二人でアイスを食べる。

 ありがとうございます、平さん。

 完食すると、俺捨ててくるよ、と言って降谷くんがごみをもってスーパーの中に入っていってくれた。

 お昼時、アイスを食べ終えたからか気温も丁度良く感じられ寝られそう、とボーっと遠くを見つめる。

 すると、三人の人が見えた。


「話してください」

「えぇ~。いいじゃん、ちょっとくらいお兄さんたちと遊ぼーよ」

「やめてって!」

「いいじゃん!」


 明らかに、男の人たちがダル絡みしているようだった。

 見ていて嫌な気分。そう思って人影に近づくと、あることに気が付いた。



 ――絡まれてる女の人、舞香だ。

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